231号表紙

No.231(平成4年1月)

特集:

思い出の神戸市電(下)

電車の写真を撮り続けて40年 山本 雅生

 私は子供のころから電車が好きでした。県立兵庫工業高校の機械科に入学し、板宿の自宅から和田岬の学校へ通うようになって、ますます電車が好きになりました。というのも、通学の途中に川崎車輛(現川崎重工兵庫工場)はじめ長田区北町に市電車庫、西代に山陽電鉄の車庫があって、いろいろな電車を見ることができたからです。戦後間もない窮乏の時代でしたが、私は学校への行き帰りが毎日楽しみでした。
 そのころから知り合いのカメラを借りたりして電車の写真を撮っていましたが、本腰を入れるようになったのは就職してから、当時まだ高価だったカメラを買えるようになってからです。昭和二十六、七年でした。当時は、趣味といってもまだ駆け出しですから系統的に勉強して撮るというのでなく、市電はもちろん省線(現JR)、私鉄と、電車であれば何でも行き当たりばったりに撮っていました。

これが趣味か、とびっくり

 そんな私に新しい刺激を与えて下さっていたのが関西鉄道同好会の諸先輩です。同好会は山陽電鉄の方々が中心になってやっておられました。会に入れていただいて驚いたのは、皆さんが歴史に非常に強かったことです。鉄道全般の歴史を丹念に調べている人、もっとしぼって車両や路線の変遷史、さらには鉄道を産業の面からとらえて研究されている方など、これが趣味かと、若輩の私はびっくりしてしまいました。
 中でも当時、同好会の会誌に平井節郎さんが「神戸市電改造車余談」を連載されていて、それを読むにつけても、市電の一両、一両にこんな歴史と先達の英断があったのかと、深い感動とともにむさぼるように読んだものです。
 堅固、安全、軽量の三拍子そろった鋼鉄製四輪客車が神戸市電に初めて登場したのは大正十二年六月ですが、反面、木造車は次々と改造・廃車され、昭和初期にはほとんど姿を消しました。平井さんの「余談」には、こんな車体製作史の裏話が年を追って興味深くつづられていました。私が市電の、とりわけ車体にのめり込むようになった大きなきっかけはこれだったように思います。
 市電は都会の中の併用軌道を走っていましたので、車も一緒に走っておれば自転車も人もいる、といった具合で写真を見ると当時の風俗が分かります。また、建物もまさに生き物です。すでになくなったもの、年を経てなお健在なもの、一部が改造されてまだ面影を残したものなど、写真に映っている建物からも時代考証ができます。

多くの良き友人に恵まれて

 私自身は若いころから硬派の諸先輩に教えられたせいか、電車以外の風景はあまり気にしない方ですが、それでも、後で写真を見るとびっくりするようなものがバックに映っていることがありました。今から思うと、もっと風景を頭に入れた写真を撮っておけばなおよかったのにと思っています。
 自分でカメラを買って撮りだしてからでも、もう四十年になります。この間、趣味を通じて多くの良き友人にめぐまれ、仕事の上でも大きな励みになりました。電車との付き合いは元気なかぎり続けるつもりです。(談)

  • 市電のバックは聚楽館。かつては演劇や映画の専門館として「ええとこ、ええとこ聚楽館」とはやされた同館も、次第に衰退の道をたどっていた。走っている200型市電は大阪からの購入車両。かつては脇浜から大阪・野田まで走っていた阪神電鉄国道線と市電線は脇浜でレールがつながっていたので、トレーラーでなく、この線を走って大阪から送られてきた
  • 有馬道。走っている100型市電は昭和39年に大阪市から購入した20両のうちの1両で、兵庫駅発石屋川行。写真左側の拡張された道路下に昭和43年4月、神戸高速鉄道が開通した
  • 工事中の阪神高速道路の下を行く松原回り鷹取行の市電(相生町4丁目〜湊町1丁目間)。阪神高速道路の京橋〜柳原間は昭和41年10月開通
  • 市電兵庫駅終点。市電のほか国鉄(山陽本線・和田岬線)、山陽電鉄の4線が集中する鉄道の要所だった。山陽電鉄兵庫駅は神戸高速鉄道の開通に伴って昭和43年4月7日、市電も兵庫〜楠公前間が同月21日廃止された。発車待ちの市電のすぐ右側の山陽電鉄兵庫駅に、間もなく開業する神戸高速鉄道の路線案内図を掲げている
  • 長田商店街前のカーブを曲がる500型市電。バックは高取山。500型も市電廃止後、広島へ行った
  • 大倉山から神戸駅へ向かって南下する市電。大倉山〜楠公前間は昭和45年3月15日に廃止された。写真はその3日前に撮影
  • 平野終点。市電は車も一緒に走る併用軌道だったので、どの終点でも車の邪魔になる車体止めなどはなかった。この南北の道は有馬街道(国道428号)
  • 平野終点から南を望む。発車待ちの石屋川行電車の右側にポイントの切替所があった。遠隔操作でポイントを切り替えて、電車は"渡り線"を通って左側の軌道に移り、進行していった
  • 湊川公園西口。写真左側、神戸タワー撤去後の跡地でショッピングセンター・ミナエンの建設工事が始まっている
  • 下沢通四丁目の浄徳寺の前を行く1150型市電(市電最終形式のPCC・カー)。電車の向こうに神戸タワーが見える。当時は信号が少なかった
  • 湊川公園の旧トンネルを西へ出ようとしている市電。トンネルのアーチが美しい
  • 湊川公園東口。停留所の右側の旧トンネルは大正10年に建設されたもので、上の湊川公園に遊園地(スポーツランド)があった。左側には神戸タワーが雄姿を見せていた
  • 貯木場越しに見た大輪田橋。橋の手前の鉄橋は、国鉄和田岬線から分岐して中央卸売市場や兵庫突堤を結んでいた貨物専用線
  • 夕映えの兵庫運河の新川橋を渡る市電(和田・高松線)。一日の仕事を終えてハシケもちょうど橋を通過しようとしている

  • 清盛塚と松原線の市電。清盛が今日の兵庫の基礎をつくった功績は大きい。市電松原線の道路拡張工事で、大正12年に清盛塚はもとの場所から東北へ11m(現在地)に移転された経過がある
  • 築島橋北詰から島上町1丁目を望む。電車のすぐ向こうの建物は明治38年建築の旧東京倉庫(現石川ビル)。神戸港のルーツといわれる兵庫津の面影をまだ色濃く残している
  • 和田岬を行く500型市電。電車のすぐ左側に三菱重工神戸造船所のドックに入っている修繕船やクレーンが見え、造船所のまち並みの感じがよく出ている。電車はすでにワンマン化されており、市電末期の写真
  • 今出在家停留所付近のS字カーブを行く市電
  • 国鉄和田岬駅のすぐ南側にあった市電和田・高松線の跨線橋。和田岬駅は、かつて跨線橋からさらに南の三菱重工神戸造船所内にあったが、昭和20年の戦災で焼失、橋の北側の現在地に移設された。しかし造船所への引込線は戦後も残っていて、1日1本ぐらい貨物列車が車の通行を止めて工場から和田岬線へ入っていた
  • 下町の雰囲気が漂う和田岬。停留所に止まっている電車は鷹取車庫行の臨時系統
  • 阪神高速道路の建設に伴い移設線路を通る市電(東尻池2丁目西寄)。昭和40年ごろの写真
  • 市電と旧型客車が上下で交差している須磨区常盤町の国鉄ガード。高架下に市電常盤町停留所があった。ガードが低かったため道路を掘り下げて市電を通した

  • 市電板宿終点。昭和30年代前半に山陽電鉄板宿駅の上りホームから撮った写真。市電の系統板がひし形をしている。山陽電鉄の線路のさくは廃物利用のまくら木だった
  • 阪神高速道路の橋脚越しに見た須磨水族館(現在の須磨海浜水族園)。水族館は昭和32年5月竣工、若宮町停留所を「須磨水族館前」と改称した
  • 須磨水族館付近。水族館の右側向こうに須磨港を発着する淡路フェリーが見える。車道の拡幅工事が行われているが、須磨海岸の養浜事業は始まっていない
  • 天神橋を通る神戸市電。橋の下を国鉄線(現JR)が走っている。中央の複線は戦前からあったが、左端の列車線は複々線工事(昭和40年2月完成)によってつくられた
  • 須磨駅終点の発車待ちの車両。先頭車両の右側歩道に信号所があった
原爆ドームを背景に広島市内を走る広島電鉄587号車。この電車は、昭和46年3月の神戸市電廃止後、同年11月に神戸から広島へ行った29両のうちの1両。車体のグリーンや電車番号は神戸時代と同じで変わっていない。現在も16両の元神戸市電が活躍している。(平成3年12月撮影)

市電あ・ら・か・る・と

  • 和田車庫に入庫する300型単車。当時としてはスマートだったが、揺れがひどくて乗り心地が悪く、昭和39年に大阪の市電を購入してから順次廃車になった
  • 市電では珍しくパンタグラフを取り付けた1001号車。ポールからビューゲルへの転換期に、試験的に2両だけ短期間試みられた(昭和26年)
  • 車体前面右上に尾灯を付けた400型単車。尾灯が上にあるのは珍しく、この401号車だけだった。ひし形の系統表示板を付けていた
  • 昭和25年に廃車された217と216号車。わが国最初のスチール・カーとして大正11年に製作された車両で、運転台横の側窓がない。長田区の笠松公園に展示されていたが現在は保存されていない
  • 国鉄和田岬線に架かっていた旧明治橋を走る570号車。市電の専用軌道として跨線橋をつくったケースは他都市ではあまり見られない。昭和26、27年ごろの撮影。国道2号の拡幅により現在この橋はない
  • 945号車(明石市王子公園内)
  • 708号車(神戸ハーバーランド)
  • 最終電車に別れを惜しむ市民(昭和46年3月13日夜11時ごろ、三宮阪神前)
  • 大勢の市民が板宿発和田車庫行の最終市電を見送った(昭和46年3月13日夜11時ごろ、板宿)
神戸市電の現存車両(広島電鉄以外)
1155 市立本山交通公園
708 神戸ハーバーランド
608 日本基督教団鈴蘭台教会
1020 西尻池南部地区自治会
609
705
808
神戸市営地下鉄名谷車庫(非公開)
1012
1017
西区神出開拓農業協同組合
945 明石市王子1・2丁目自治会
(明石市王子公園内に電車会館として)
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