172号表紙

No.172(昭和62年2月)

特集:

こうべ冬の散策

こうべ冬の散策

(左)
諏訪山下の東西のバス道から旧看護学院横の道を少し上ると、再度ドライブウェイ入り口のトンネルに出る。階段を上って山道に入ると、間もなく太子の森の碑がある。午前10時ごろ、はや山から下りて来た夫婦連れに出会った

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こうべ冬の散策1
素晴らしい中心街の展望

太子の森〜二本松林道分岐点〜修法ガ原〜仙人谷〜森林植物園「学習の森」
(約六km・所要時間二時間)
 再度山は、神戸の毎日登山発祥の地で、市街地からの各ハイキングコースは四季を通じてにぎわっている。このうち比較的ハイカ−が多いのは、大竜寺の参けい道として知られる大師道や、布引からの道だが、展望の楽しさという面では、中心街を見下ろしながら歩くこの尾根通しのコースも素晴らしい。木の葉の落ちた冬のシーズンは、登り始めて十分ほどで、ポートアイランドのファッションビルがそれこそ手にとるように見えてくる。都市の中心街と山がこれほど身近に接し合っているのは恐らく神戸ぐらいのものだろう。
 山肌にきれいに刈り込まれた錨(いかり)マークと展望台、風力発電、そして市章マークと展望台…と、その度に一服しなければ悪いような休憩場所が次々と現われるのも楽しい。やがてドライブウェイと二本松林道の分岐点に出、ここから自然歩道に入る。展望はやや悪くなるが、シイ、モミジ、サクラなどの大木が多く、ここも落ち葉の厚いなかなかムードのある散策道だ。大竜寺の少し手前の善助茶屋跡を過ぎ、寺の西側の道を通って修法ガ原へ。
 昼前ごろから雪が降り出し、これがだんだん強くなったので修法ガ原に来ていた子供たちのグループは急いで茶店に入り、早目の食事をしていた。人気のあまりない松林にひとしきり舞い落ちる牡丹雪はなかなかの風情で、子供たちもさぞ印象に残ったことだろう。池には水はなく、ブルドーザーが入って底の土をさらえていた。
 池からドライブウェイ沿いに少し北へ行った所から道標に従って仙人谷に入る。名前は仙人でも、ここは修法ガ原と洞川湖を結ぶ一kmほどの明るい谷間の道で、よく整備された雑木林の静かな散歩道が続いている。木立の中の休憩所も至る所にある。修法ガ原で終らずにぜひ足を延ばしてみてほしいコースである。
 洞川湖から自動車道を渡ったすぐ北側に市立森林植物園の学習の森がある。ここから植物園の西門までは近道(道標あり)を歩くと約十分、また、自動車道をそのまま西へ下ると約三十分で有馬街道へ出、さらに五、六分で湊川公園・神戸駅行きのバス停「水源地」に出る。

  • 写真錨と市章マークの間に立つ風力発電装置
  • 写真

    山肌に美しく刈り込まれた錨(いかり)マーク

    写真通称・錨山の展望台。いつ見ても素晴らしい展望だ
  • 写真桜の苗木が植樹された登山道
  • 写真落ち葉の厚い林の中の自然歩道
  • 写真公園風に整備された毎日登山発祥地、善助茶屋跡
  • 写真大竜寺
  • 写真雪の中を楽しそうに歩く子供たちのグループ(修法ガ原池)
  • 写真仙人谷"ハミング広場"の散策路
  • 写真仙人谷の"梅の園"。市街地と違い、一月下旬でもまだつぼみは堅かった
  • 写真

    森林植物園「学習の森」の温室

    写真6月ごろにチューリップのようなきれいな花を咲かせるユリノキ広場
  • 写真

    大きな牡丹雪の舞う松林と茶店

    写真静かな洞川湖

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こうべ冬の散策2
歴史と伝説の道、丹生山−義経道

バス停丹生神社前〜丹生神社宝物殿〜丹生山頂・丹生神社〜鷲尾屋敷跡〜義経道〜藍那(約十km・所要時間三時間半)
 丹生文化のふるさと、北区山田町の丹生山と、同じく山田と藍那を結ぶ通称「義経道」を歩くコース。コースを逆にして、藍那から山田へ抜けて丹生山へ登ってもよいが、初めに山に登っておく方が気分的に楽だ。
 丹生山は四百年ほど前、三木の別所氏が織田信長に背き、丹生山明要寺も別所氏に味方したため、信長の命を受けた秀吉が寺を焼き払い、多くの人が殺されたという哀史を持つ静かな、歴史の厚みの感じられる山である。また義経道は、源義経が一の谷の平家を攻めたとき、鷲尾氏の道案内で歩いたと伝えられる穏やかな古道で、春先にはワラビ採りにやってくる人も多い。
 丹生山の登り口は神戸電鉄箕谷(みのたに)駅から衝原(つくはら)行きのバスに乗り、丹生神社前下車。鳥居をくぐり、田んぼを横切って五、六分行くと丹生神社宝物殿があり、そばに石の大きな地蔵さんが立っている。
 雑木林のゆるやかな山道に入り、しばらく登ると、道のやや左に丹生山、右に帝釈、稚児墓山が振り分けのように見えてくる。それぞれが個性的で山肌が実に美しい。登山口と頂上のほぼ中間地点に、また地蔵さんが現われる。ここから左に折れると表参道、真っすぐの林道が脇参道で、どちらも約三十分で山上の丹生神社に着く。登山道の所々に、頭部が五輪塔の形をした古い丁石があるのも近辺の山では珍しい。
 義経道は、丹生神社前バス停の南側の田んぼの中にぽつんと立っている灯ろうが目印になる。ここが鷲尾屋敷跡で、そばを義経道が通っており、南の山あいを経て藍那へ通じている。屋敷跡の近くに、義経道の道標を兼ねた北向地蔵もある。
 山あいの道に入ると、後は山越えというより、高原を行くような感じの良い道を約一時間半、のんびりと下るだけだ。枯れ葉の深い小道を過ぎると、急に展望が開けて、西区神出の雌岡(めっこ)山、雄岡(おっこ)山が薄もやのかなたに見えたりする。冬の方がよりぴったりする、落ち着いた雰囲気のコースである。
 藍那は、集落も田畑も山ふところに抱かれ、外部からの訪問者には容易にその全容を見せない秘境のような趣があるが、村社・天津彦根神社も、主道から少し離れたひっそりとした山あいの台地に社殿があり、そばに農村歌舞伎舞台が立っている。

  • 写真登山口に立つ二百年以上も前の古い地蔵さん。台石に「従丹生山廿五丁明和七庚寅」とあり、歴史の厚みを感じさせる
  • 写真丹生神社にまつわる古文書などが保存されている宝物殿
  • 写真丹生山に向けて、丹生神社前バス停に立つ道標
  • 写真

    丹生山の中腹から見た山田の里。前方の山は稚児墓山

    写真表参道と脇参道の分かれ道に立つ地蔵さん。左の道が表参道
  • 写真丹生山の持つ哀史を思い出させるような登山道の枯れ木
  • 写真脇参道の杉木立の道
  • 写真

    参道にある丁石。登山口にある地蔵さんと同時代のものといわれている

    写真丹生山頂上の丹生神社
  • 写真表参道に入ると、すぐに昼でも薄暗い深い木立の坂道になる
  • 写真枯れ葉の厚い義経道の小道
  • 写真

    義経道の道標を兼ねて田のあぜ道に立つ北向地蔵

    写真鷲尾屋敷跡の灯ろう。山並みの右端が帝釈山、その左の方の頂上に茂みがあるのが丹生山
  • 写真

    神戸電鉄藍那駅の近くにある古い七本卒塔婆。だれが何のために建立したものか分かっていない

    写真天津彦根神社と農村歌舞伎舞台
  • 写真義経道から西区神出町の雌岡山・雄岡山を望む。神出富士といわれるだけあって仲良く並んだ姿は実に美しい

こうべ冬の散策3
まるで仙境の雰囲気

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極楽茶屋〜小川谷〜逢山峡(ほうざんきょう)〜神戸電鉄有馬口駅(約七km・所要時間二時間半)
 この冬初めて、六甲山一帯に雪らしい雪が降った翌日、山上の極楽茶屋から小川谷へ下り、逢山峡を経て神鉄有馬口駅まで歩いた。神戸の市街地の朝の最低気温が零下二度という寒い日だった。
 極楽茶屋へ行くまでが少しおっくうな気もするが、冬場でも、六甲ケーブルも六甲有馬ロープウェイも三十分毎に運転しており、出掛けてしまえば思ったほど時間はかからない。ロープウェイのカンツリー駅から極楽茶屋までは歩いて約十分である。
 茶屋は、入り口を締め切ったまま、雪の中にぽつんと立っていた。人の気配の全くないそんな極楽茶屋を見ていると、急にひざのあたりから寒さがじーんと伝わってきた。同じ六甲でも、この辺りから最高峰にかけて見事な樹氷が見られるかわり、寒さの方も違ってくる。
 いよいよ雪道の下り。茶屋の右手から熊笹の道を東に入ると紅葉谷、真っすぐ進むと湯槽谷山、どちらも有馬温泉へ出る。小川谷は茶屋のすぐ左手(道標あり)のやぶ道に入り、しばらくして、細い道をそれこそ雪まみれになりながらどんどん下ることになる。この日の積雪は二十センチぐらい。それに坂はかなり急だ。
 踏み跡はなくても、目印のテープが所々木に巻いてあるのでコースを間違えることはまずないが、何しろ低い木の枝という枝が前日の雪をたっぷり持ったままなので、背をいくらかがめても、下をくぐる度に雪がサラサラ、時にはバサッと舞い落ちてくる。まとまった雪が首筋に入る度に、同行の三人が交代で明るい悲鳴を上げた。
 約二十分でやっとゆったりとした明るい谷筋に出る。お互いが顔を見合わせて笑いながら、威勢よく全身の雪を払い落とす。なんのことはない、雪と戯れた後の子供のようなものである。真上をロープウェイのゴンドラが音もなく過ぎた。空はまぶしいほど青い。細いこずえの先まで雪をつけた高い木々の枝が、その空に向けていっせいに伸びている。足元は、もちろん踏み跡一つない一面の雪。ロープウェイのことなどつい忘れて、まるで仙境にでも立っているような、なんともいえない気分だった。
 ここからは、谷川にほぼ沿ってながらかな雪道をのんびり下るだけである。滝もなく特に危険な所はない。極楽茶屋から約一時間で谷の名称は小川谷から茶園谷と変わる。小川谷が思ったより短かったのが少し物足りない気もしたが、散策という意味ではこれぐらいがむしろいいのかもしれない。

 注・厳寒期の裏六甲の谷筋は雪が多く、凍結することも珍しくありません。アイゼン、簡易スパッツ、フード付きヤッケ等も持参して下さい。

  • 写真六甲山上の極楽茶屋横の道標
  • 写真雪の中に立つ極楽茶屋。この辺りから最高峰にかけて寒さは一段と厳しい
  • 写真逢山峡のキャンプ地。現在は環境保全と防火のため使用禁止となっている
  • 写真すっぽりと雪化粧をした小川谷
  • 写真野犬かイノシシか、コースを先導してくれるようにかなりふもとまで続いていた動物の踏み跡
  • 写真逢山峡の下流にある猪鼻(いのはな)滝
  • 写真小川谷第5砂防ダムから山上を振り返ると、六甲有馬ロープウェイが通り過ぎていた
  • 写真逢山峡への道
  • 写真雪をかぶった北向不動明王
  • 写真山王神社。県の環境緑地保全地域になっている

こうべ冬の散策4
見事な展望、落葉山

有馬の温泉郷周遊

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 有馬温泉は日本最古の温泉といわれ、六甲山の山ふところに囲まれた美しい温泉郷である。主な見どころを挙げても、落葉山、瑞宝寺公園、鼓ガ滝、鳥・虫地獄、天神泉源、湯泉神社…など、一度ではなかなか見切れないほど温泉にまつわる名所史跡、社寺は多い。
 まず、有馬の街の格好の見晴らし台である落葉山は、神戸電鉄有馬温泉駅から滝川沿いに歩いて七、八分の旅館組合総合案内所横の石段から参道に入る。入り口に、市の名木に指定されたしだれ桜で有名な善福寺がある。
 つづら折りの静かな道をしばらく登ると、展望がさっと開けて、六甲北ニュータウン一帯と丹波の山々が見え、さらに歩を運ぶと、木の枝越しの真下に有馬の街が見下ろせるようになる。
 落葉山は、有馬温泉中興の祖、仁西上人が熊野からこの山まで来て途方に暮れていたとき、一人の老人が現れ、「この木の葉の落ちた所が温泉のわき出す所じゃ」と告げて山上から木の葉を投げ、姿を消した。そこで上人が葉の落ちた所を掘ってみると、老人が告げたとおり湯がわき出し、温泉を再興することができたところから、この山を落葉山と呼ぶようになったという伝説がある。昔からの言い伝えは、やはり生まれるべくして生まれたものが多いもので、実際に山へ登ってみるとそれが本当にあったことのように思えてくる。
 登り口から山上の妙見堂まで片道約三十分、程よい間隔で合計三十三のほこらが道案内よろしく迎えてくれる。
 有馬の温泉郷は、北の頂点に神鉄有馬温泉駅があり、東西を六甲川と滝川が流れている。滝川の山すそにあるのが鼓ガ滝で真上を六甲有馬ロープウェイが通っている。そして六甲川の上流にあるのが瑞宝寺公園で、鼓ガ滝と瑞宝寺公園を結ぶ外周道路に沿って虫地獄・鳥地獄、稲荷神社などがあり、途中の道を下ると、街のほぼ中央に湯泉神社、極楽寺、念仏寺といった社寺がかたまっている。一番離れている鼓ガ滝〜瑞宝寺公園は、ゆっくり歩いて一時間そこそこだろう。
 街の中は狭い道や坂が入り組んで慣れるまでは方角もよく分からないが、いざ歩いてみると、新旧の道標が随所にあり、地図さえ持っておればそんなに迷うことはない。名所史跡以外にも、古い温泉街らしい家並みがそこかしこに残っている。

  • 写真有馬の温泉街を流れる滝川
  • 写真温泉街の中心部に残る古い家並み
  • 写真極楽寺
  • 写真歴史をしのばせる瑞宝寺跡の山門(瑞宝寺公園)
  • 写真鳥地獄。射場(いば)山のふもとの地獄谷では炭酸ガスか発生していて、鳥や虫が死ぬところからその名がある
  • 写真湯煙を上げている天満宮の天神泉源
  • 写真炭酸水がこんこんとわき出ている"炭酸ひろば"
  • 写真妙見堂
  • 写真鼓ガ滝
  • 写真鼓ガ滝の上を通っている六甲有馬ロープウェイ
  • 写真妙見堂への参道に立つほこら。一番から三十三番まで同じようなほこらが次々と現われる
  • 写真落葉山の頂上にある妙見堂の境内。防寒衣を着込んだ登山者が六甲山上から下りてきた
  • 写真落葉山から見た有馬温泉。山ふところに抱かれた感じがよく分かる
写真
きらめく六甲の樹氷(一月二十六日、六甲最高峰付近で。前方の山は湯槽谷山)
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