166号表紙

No.166(昭和61年8月)

特集:

国立公園・六甲山

国立公園・六甲山

かけがえのない財産

 国立公園は日本を代表する優れた自然の・風景地で、現在二十七か所が指定されています。六甲山地区は昭和三十一年に瀬戸内海国立公園の一部として指定されました。
 指定面積は約六千八百ヘクタールにわたり、東は宝塚市、西宮市、芦屋市から西は神戸市兵庫区にまたがる山地一帯が公園区域辺なっています。
 六甲山は明治の初期には、それまでの伐採などにより裸山同然だったのですが、人々の努力により植栽が進められ、現在では立派な森林が戻り、阪神大都市圏に接する身近な自然公園として多くの人々に親しまれています。九百三十一メートルの高さがだれにでも行ける手ごろな山として年間七百万人もの登山者が訪れます。
 六甲山は、豊かな四季の変化のもとにふもとの暖温帯から頂上の冷温帯にわたる樹林、渓流、多種類の野鳥、地形奇観、雄大な展望などに恵まれています。さらに、近年アジサイが多数植えられ、これらを観賞するための多くの利用施設も整備され訪れる人々を魅了し続けています。
 六甲山は、計り知れないほどの活力と精神的な豊かさを与えてくれるかけがえのない私たちの財産です。(文・市立教育研究所神戸の自然研究グループ)

見る見る小さくなっていく市街地を見下ろしながら、山上へ向かう子供たち(六甲ケーブルで)

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六甲山の地質と生い立ち

 六甲山地は地下深くでできた花コウ岩からできています。ピンク色のカリ長石の日立つ六甲花コウ岩と角閃(せん)石の多い布引花コウ閃緑岩の二種類があります。この花コウ岩ができたのは七千万年から一億年前(中生代・白亜紀)のことです。しかし山そのものがこんなに古いわけではありません。
 少なくとも百万年以に前には六甲山地付近はそんなに高くない、なだらかな平原でした。かつての平原のなごりが山頂付近(八百メートル)や摩耶山・修法が原などに残っています。
 百万年ほど前から近畿地方全体は東西方向から大きな圧力で締めつけられ、六甲山地は徐々に上昇を始めました。さらに五十万年前からは急激に高くなってきました。対照的に沈んでいったのが大阪湾や大阪平野なのです。そこには山地からけずりとられた土砂が運ばれ、地層となってたまっていきました。
 この隆起と沈降に伴って岩石は壊されます。その変動の傷跡ともいうべき所が断層です。神戸の市街地と六甲山地とを境する諏訪山断層をはじめ山地の各所に、岩石がボロボロに壊された断層を見ることができます。
 百万年間に一千メートル近くの高さにもなった新しい山・六甲はまだ成長途上の山だと考えられています。
 六甲山地の山々に登る時、その激しい変動に思いをはせながら歩いてみると、今までとはちょっと違った「六甲山」を発見できるでしょう。

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    六甲ケーブル山上駅前

    写真東六甲随一の展望台として人気のある大狗岩
  • 写真山上から張り出すようにそそり立つ天狗岩。ここから南の急な尾根筋が天狗岩南尾根で。最短距離で渦森台へ下ることができる
  • 写真天狗岩のすぐそばの上を通る六甲有馬ロープウェーのバンガロー。正面はロープウェー天狗岩駅
  • 写真ケーブル山上駅東側の展望台

六甲山の植物

砂防植林
 六甲山では至る所にヤシャブシやニセアカシアなどの林を見かけます。かつて六甲山地は荒れるにまかせたハゲ山が多く、山崩れや土石流がよく発生し、大きな被害を出していました。ハゲ山から緑の回復をめざして植えられたのが、ヤシャブシやニセアカシアなどです。これらの木に肥料木ともいわれ、やせ地にでも恨をおろす強い木です。

自然林
 アカマツ林やコナラ林、砂防林からなる六甲山にも、自然林が残っています。標高七百メートルぐらいから山頂にかけて残るイヌブナ林やブナ林がそうです。林の中で見かけるイワカガミやミヤコザサ、それにゴヨウツツジやベニドウダンツツジ、ツリガネツツジなどの低木が自然林らしい組み合わせを見せてくれます。
 再度山のシイ林や摩耶山のモミ、ツガ林なども六甲山の気候や土壌に合った自然林です。新神戸駅の裏山一帯に生える照葉樹林は、低地の自然林です。

植物の垂直分布
 六申山は千メートルには少し足りない山ですが、それでも高さによる植物の違いが見られます。ドングリをつける力シの仲間と六甲の春を美しく彩るツツジの仲間の垂直分布についてみると左の図のようになります。

  • 写真交通安全と大空の守りを祈って建てられた"みよし観音像"
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    六甲山ゴルフ場。明治36年(1903)に完成した日本最初のゴルフ場で、神戸ゴルフ倶楽部として運営されている

    写真夏はボートでにぎわう新池遊園地
  • 写真六甲高山楠物園の二ッコウキスゲ。各地の高山植物や六甲山の特産植物が栽培されている
  • 写真大きな岩に般若(はんにや)心経が刻まれている心経岩。心経岩の北側の道をたどり、小さなはしごを登ると雲ケ岩がある

六甲の市民登山

「'86KOBE六甲全山縦走大会」
 昭和五十年秋に始まった六甲全山縦走市民大会は、これまで十一年間に延ベ二十二回行われ、応募者数五万四百七人、参加者数三万五千三百八十四人、うち完走者は二万九千三百七十二人で完走率は八三%でした。六甲全縦は、塩屋・須磨浦公園から
鉢伏山を経て宝塚までの山稜線五十六キロを一日のうちに踏破するもので、トレーニングを積んだかなりの健脚家でも十二〜十五時間ぐらいかかるのが普通です。
 このようなハードな行事に、毎年何千人もの市民がどうして敢然と挑戦するのか。ここでまず指摘できるのは、市民の登山熱というか、子供のころから親しんできた六甲山に対する愛着が、この全縦行事の背景にあるということです。市内には保久良山、一王山、摩耶山、再度山、高取山、旗振山など毎日登山のコースがいくつもあり、朝食前や出勤前にたくさ人の人たちが地域の手近なコースで山歩きを楽しんでいます。また、家族連れやグループによる休日のハイキングも盛んです。このように、六甲山系のハイキングコースは四季を通じてにぎわっていますが、この日ごろの六甲登山の総仕上げが六甲全山縦走というわけです。
 神戸市は昨年九月、「国際スポーツ都市宣言」をしました。これは、市民のスポーツ活動の推進とともに、広く国内外の人々にも参加してもらい、スポーツを通じて相互の交流の活発化を願ったものです。全縦市民大会もこの趣旨に沿って、今年から神戸市域外からの参加を歓迎することにし、「'86KOBE六甲全山縦走大会」(十一月九・二十三日に実施)の参加申し込みの受け付けが現在行われています。
 晩秋の六甲路を舞台に、全国の歩く仲間と市民のさわやかな交流を大いに期待したいものです。

  • 写真カンツリーハウスの東にあるフィールドアスレチック。四十ポイントの本格的コースが組まれている
  • 写真回る十国展望台
  • 写真人エスキー場での夏スキー
  • 写真六甲山最高峰。石積みのあっさりした碑があるだけだ
  • 写真雲ケ岩。ここから見る六甲の山並みはすがすがしい
  • 写真芝生広場や池があり、オールシーズンにぎわっているカンツリーハウス
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六甲山の野鳥・ほ乳類

野鳥
 六甲山地で見られる鳥は約二百十種にも上り、この数は日本列島全体のほぼ二分の一に当たります。これは六甲山が渡り鳥にとって南と北の中継地になるために種類が豊富なのです。
 初夏から秋によく見かけるカケスを調べてみましょう。カケスはカラスの仲間でハ卜に比べると少し小さいですが、翼を大きく開いて飛ぶことや尾が長く明るい色調が多いことなどからハ卜よりも大きく見えるときもあります。飛び去っていく時、腰の白さが目立ちます。
 「ギャー」とか「ジャー」とか忙しい鳴き声を出しますが、仲間同士では、「グイーッ」という穏やかな声になります。こんなところから物真似が上手な鳥といわれています。六甲山、摩耶山の中腹から上部でよく見かけます。


リスの鋭い歯で食べられた松かさ

ほ乳類
 イノシシは、最近、急速に増えてきた獣です。 そのほか六甲山地には、タヌキ、キツネ、イタチ、テン、リスなどが住んでいますが、シカやサルなどはいません。
 特にリスは、体が小さく、動きが速いので見かける機会が少ないのですが、食べかすの松かさは地面によく落ちています。リスの鋭い歯でスマートに整形された松かさは、リスを探す目印になりますから、ハイキングに出かけた時など、よく探してみてください。

  • 写真保塁岩。六甲ケーブル山上駅の西。真水谷に突き出た岩場で、鋭い谷の切れ目の向こうに市街地が望める
  • 写真六甲山の開祖といわれる英人グルーム氏をたたえる記念碑(六甲記念碑台)
  • 写真六甲ケーブル山上駅から六甲記念碑台方面へ自動車道を行くハイカー
  • 写真六甲山の地質や歴史、自然などを展示している県立六甲山自然保護センターの内部
  • 写真記念碑台の休憩所と、左の建物は県立六甲山自然保護センター
六甲山の昆虫
 六甲山地には、チョウやトンボをはじめ数多くの昆虫がいます。その中でも珍しい昆虫として、国蝶に指定されているオオムラサキ、体長が二センチで日本に住むトンボとして一番小さいハッチョウトンボ、外国から来て神戸に上陸し、現在、兵庫県下にしかいないキベリハムシ、そして、山頂近くでギーギーと鳴くエゾゼミ(北海道、東北地方の平地〜低山地に住む)などが挙げられます。
 子供たちに人気のあるカブトムシ、クワガタ類も数は少し減りましたが、まだまだいるようです。虫たちを見かけたら、そっと観察しましよう。

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  • 写真六甲記念碑台とダイヤモンドポイントの途中にあるノースロード。夏でも薄暗く冷やりとした静かな散策道で、谷間からは地獄谷のせせらぎの音が聞こえてくる
  • 写真裏六甲の展望台、ダイヤモンドポイント。六甲を開いたグルーム氏ら外国人が名付け親で、目の前に深く刻まれた地獄谷や大池の住宅街、その向こうに北神戸の山々はもちろん遠く丹波、丹後の山並みなどが見える

六甲山の気候

六甲山と神戸の気候
 六甲山を含む神戸市域は、少雨温暖の瀬戸内式気候ですが、市街地にある神戸海洋気象台と、六甲山とではかなり大きな違いがあります。例えば、昭和六十年の夏と冬、及び一年開の平均気温と降水量を比べると、その違いがはっきりします。また、六甲山は青森市の気温に似ています。
 神戸や阪神間の人たちは、夏は涼を求めて六甲山を訪ね、冬はスキー、霧氷などの風景を楽しみに山へ登ります。
 このように六甲山は一年を通して多くの人に親しまれている文字どおり市民の山といえましょう。

  六甲山
(六甲山小:9時観測)
神戸の市街地
(神戸海洋気象台)
青森市
(青森観測所)
8月の平均気温(℃) 23.4 29.0 25.7
1月の平均気温(℃) -2.9 3.6 -3.1
1年の平均気温(℃) 9.5 16.0 10.0
1年の降水量(mm)  1,701 1,180 1,163.5
  • 写真三国池の北にある三国岩。表六甲と裏六甲の分水嶺に当たり、ここに自然の巨岩が三つ重なり合っているところからこの名が付いた
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    六甲山牧場の"ポニーのりば"

    写真おとなしい木曽馬
  • 写真牛の放牧場。牧場のレストハウスでは搾りたての牛乳も販売している
  • 写真丁字ケ辻付近を走る市バス
  • 写真三国池。明治28年(1895)、六甲山の開祖といわれるA・H・グルームが最初の別荘を池のほとりに建てた
  • 写真スイスの山岳牧場を思わせる六甲山牧場。人と動物のふれあいの場として、多くの人々に人気がある
  • 写真放牧された羊と遊ぶ女性。青空に白い雲が美しい
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  • 写真摩耶山の中腹を行く摩耶ロープウェーのゴンドラ
  • 写真家族連れやハイカーでにぎわう奥摩耶遊園地(掬星台)。ここからの眺望も素晴らしい
  • 写真市立自然の家の野外教育活動でキャンプファイアーを楽しむ小学生。自然の家は、摩耶山にある青少年の集団野外教育施設で、宿泊施設やグラウンド、ファイアー場、アーチェリ一場のほか、野鳥・植物の里などの付属施設がある
  • 写真緑に囲まれた自然の家
  • 写真摩耶自然観察園のあじさい池。自然観察園は四季の樹木や草花、小鳥などが観察できる
  • 写真子供たちの声が明るくこだまする穂高湖
  • 写真桜谷道への降り口にある産湯(うぶゆ)の井戸。昔は、お産の時にこの水を持ち帰って産湯に使うと赤ちゃんが元気に育つといわれていた
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    野鳥誘致区。自然観察園は四季の樹木や草花、小鳥などが観察できる

    写真摩耶山頂にある天狗岩大神
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    点々とほこらが並ぶ山頂付近の山道

    写真国民宿舎摩耶ロッジ
  • 写真掬星台と摩耶ロッジの間の眺望のよい尾根筋にある子供の丘
  • 写真自然観察園の風の丘
  • 写真復興された摩耶山天上寺本堂
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"1000万ドルの夜景"とうたわれる六甲山上から見た神戸の夜景。
光のじゅうたんを敷きつめたように輝く街の灯は冬と違って甘く優しい(六甲ケーブル山上駅東側で)
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