106号表紙

No.106(昭和56年7月)

特集:

六甲の原自然を探る

六甲の原自然を探る 真直ぐに空高く伸びたこのイヌブナは樹高20メートルをこえ、胸高直径は70センチもある。根の周りは2メートルにも達する太さ、秋にはさぞ見事な黄葉ぶりをみせることだろう
 

イヌブナは生きていた
神戸の自然研究グループ

  • 背丈ほどもあるミヤコザサを分けて、植生調査をする先生たち背丈ほどもあるミヤコザサを分けて、植生調査をする先生たち。この日は朝から霧が立ちこめ、ブナ探しは困難をきわめたが、珍しいミヤコザサの花とアリマウマノスズクサなどを観察した(魚屋道(ととやみち)東側の尾根筋で)
  • ブナの大木瑞宝寺谷を登りつめ尾根を走るドライブウェイに手が届きそうな所に生えているブナの大木。六甲のブナの主というのにふさわしく樹皮にはコケなどが一面にはりつき、貫録十分。おそらく二〇〇年をこえるきびしい風雪を耐え、六甲山のうつろいを見つめてきた生き証人である。樹高一六・五メートル、高度は八五〇メートル

  • 太い幹いっぱいに彫りこまれた落書が傷ましいブナの老木太い幹いっぱいに彫りこまれた落書が傷ましいブナの老木である。風のためか、上べ伸びる分だけ横へひろがった幅のある木で、根回りは二・二五メートル。一番新しい落書は、横書で81綾子1/4とあった。紅葉谷のダムと水場との間、七九五メートルの高さにある
  • サワグルミサワグルミ。六甲の深い谷合いで風の影響をあまりうけない所の木には背の高いものが多い。このサワグルミは2本に株分かれしているが、すっくと立ち、ほれぼれするスマートさである。試みに測ると樹高計の針は29メートルを示した。六甲山の自然林の中では、指折りのノッポであろう。
  • 強い毒性のツタウルシ強い毒性のツタウルシ。ハゼよりも、ウルシよりも毒性の強いツタウルシはイヌブナ林の植物である。自分より太い木にまつわりつき、あたかも自分自身のように仕立てあげる。舂の新緑の季節が一番警戒すべきで、秋の紅葉の頃になるとその毒性は弱まる。
  • 樹皮がねじれたリョウブ樹皮がねじれたリョウブ。リョウブやアセビの高さは、ふつうは数メートルで10メートルをこす場合は珍しい。このリョウブは、一抱えもある太さで、高さも10メートルに達する古木である、広い六甲山にはときとして私たちの常識をこえる大物がいる
  • タンナサワフタギタンナサワフタギ。アセビやリョウブなどにまじって、ミヤコザサの密生した林床に生えている低木で、白いボサボサのはがれやすい樹皮の目立つ木である。紙のようにうすい木の皮にはいぼ状の突起か数多く点在していて、何となく神秘的な雰囲気をもつ木である
  • 六甲山南斜面のイヌブナ林六甲山南斜面のイヌブナ林。中央の凹凸に富む樹冠の木立がイヌブナ林で、ここには高さ20メートルをこす巨木から数メートルの若木まで、50本を数える。尾根にはアカマツが点在し、谷までの急斜面はイヌブナで埋めている。極楽溪の750メートル付近
  • イヌブナ林東六甲の北斜面の700〜800メートルには、数十本単位の本格的なイヌブナ林がある。木の下に立つと、どれも20メートル級の大木の樹冠でひろくおおわれ、立ちこめる濃い霧に山深い静けさがただよう
  • ブナ林地帯のブナ典型的なブナ林地帯のブナは株立ちせず、根元からすっと一本立ちに成長するのが普通である。しかし六甲山のブナは苛酷な自然条件のためか、根から何本かに分かれて株立ちするのも珍しくない
  • ミヤコザサまるでササのカーペットを敷きつめたように密生しているミヤコザサ。このササは俗にクマザサといい、熊笹の字があてられたりする。そして、熊のすむ所に生えるからクマザサだともっともらしく説明されたりする。しかし、本来は、笹の葉の周縁部の細胞が早く枯死して、白く隈取ることからクマザサといわれるようになったのである。ミヤコザサは太平洋型の温帯林の林床に多いササである。
  • ミヤコザサミヤコザサを調べる先生たち。このグループは、神戸市の恵まれた自然を小学校や中学校の理科教材にとり入れようという先生達である。十数名いるが、この日は8名が参加して雨の中を現地調査した。写真は左から、小林(上野中)、碓井(岩岡中)、前田(教育研究所)、広瀬(布引中)、今社(有野東小)、多田(歌敷山中)、白岩(福池小)、久後(有馬小)の各先生
  • イワカガミとミヤコザサイワカガミとミヤコザサ。イヌブナ林のやや陽ざしのさしこむ所にイワカガミが多い。5月に花を終ったこの草は、梅雨にはいると葉は厚くなり、表面の光沢はいちだんと増し、革質になる。岩場に多く生えて、葉の表面が鏡のように光るのでイワカガミと名付けられた。もっともポピュラーな高山植物として親しまれている
  • スズタケとミヤコザサスズタケとミヤコザサ。どちらも六甲山のイヌブナ林の林床に多いが、ミヤコザサは八〇〇メートルぐらいからの高さに、スズタケはそれより低い所に多い。ちょうどイヌブナが集中的に多くなる高さである。両者は冬の積雪量五〇センチで境されるという説もある。ミヤコザサは節がこぶのようにふくらみ、枝分かれが少ない。スズタケは節にふくらみはなく、すーっとのびよく枝分かれする
  • ササユリ薄暗いササ原の中に咲く可憐なササユリ。この花は、花が開いたその日から、ピンクは色あせはじめ、数日ののちに白いただの百合の花のようになってしまう。可愛いため、よく手折って持ち帰るハイカーがいるが、茎だけ手折ったのであれば来年もまた咲くが、根こそぎなら、家でも根づかないし、山ではもちろん、再び会える日はこない

7月の六甲山を代表する鳥

ウグイス
 山上の低木と笹を混じた所に最も多い鳥。低い山にもいるが、六甲山上には特に多い。4月〜8月頃まで鳴く。巣は笹などの中に作りチョコレート色の卵を産む。

シジュウガラ
シジュウガラ
 ウグイスと並んで数の多い鳥。六甲では中腹以上の雑木林に多い。美しい声でチーベ、チーベとなく。白い頬、腹の中央の黒い線が目じるし。

カケス
 六甲の樹林に多い。色の美しい鳥で、声は特徴のある濁(だみ)声。ハトほどの大きさ、腰の白、翼にある青、白、黒の横縞模様が目じるし。

ホトトギス
 六甲以外の山には少ないので特に紹介しておきたい。尾根の松の木などで鳴いたり、霧の中を尾根から尾根へ渡りながら鳴く。夜も鳴く。昔の人はこの鳴声を「テッペンカケタカ」と聞きならした。

モズ
 秋の田舎ではなじみ深いが夏は六甲山の上に多い。ゴルフ場をとりまく低木の林や、路の近くに多い。この季節には「ギチギチ…」と警戒声を発しているのをよく聞く。

六甲山上に特に目立つ蝶

スジグロシロチョウ
スジグロシロチョウ
 六甲山上では低地のモンシロチョウに置換わったほど路傍や草原で数が多い。オカトラノオやアザミなどの花によく来る。

テングチョウ
 低地では真夏は夏眠して没姿するが、六甲山上では活動する。路傍や渓流ぞいの明るい場所で地上に止ったり、軽快に舞っている。幼虫はエノキを食う。ふつう年1回の発生で成虫で冬を越す。

オナガアゲハ
 低地のクロアゲハに置換るほど渓流ぞいの路や林でよく見かける。六甲山上ではクロアゲハは少ないので、クロアゲハと思ってもこの種のことが多い。幼虫はイヌザンショウなどの花によく来る。

キベリハムシ
 中国大陸産の帰化昆虫。烏原や再度山に多いが六甲でも紅葉谷の中ほどから下に見られる。摩耶山上でも見られる。神戸特産の美しい虫で他の地にはほとんど見られない。幼虫・成虫ともにビナンカズラの葉を食う。

エゾゼミ
 神戸では摩耶、六甲の山上にだけ分布する寒地性のセミ。クマゼミより少し小さい。針葉樹の横枝に頭が下を向く方向に止る(ふつうのセミとは逆)。急に木をたたくと落ちてくることが多い。
  • 六甲の山深く、イヌブナ林を流れる渓流は、せせらぎと呼ぶのにふさわしい流れである六甲の山深く、イヌブナ林を流れる渓流は、せせらぎと呼ぶのにふさわしい流れである。ミカゲ岩にぶつかり、白い泡を立てて流れる水を、カマツカの葉がおおい、ヤマイヌワラビやシシガシラが水しぶきをあびている
  • イヌブナ林の大勢は落葉樹が占めているイヌブナ林の大勢は落葉樹が占めている。なかでもカエデ科は秋の紅葉のシーズンは山肌を見事にいろどる。このイロハモミジは紅葉谷の水場に道をはさんで、向い側に並んで生えている
  • ヤマアジサイヤマアジサイ。本花のまわりに飾り花がつく、典型的なアジサイである。各家庭に植えられているアジサイはこの飾り花を多<する品種改良の結果、つくりだされた園芸品種で、いわばこの花はその先祖にあたる。六甲山の沢沿いや樹陰下にブルーやピンクの色どりの花を咲かせ、登山者を楽しませてくれる。
    コアジサイコアジサイ。神戸市民の花ともいわれるアジサイは梅雨の花でもある。6月半ば、六甲山頂付近には写真のコアジサイがいたるところに咲いていた。この花は、ほかのアジサイと違って大きい花びらのようにみえる飾り花は全くなく、淡いブルーの粉雪のような清楚なたたずまいで、私たちを楽しませてくれる。六甲山ではほかのアジサイにわずかに旬日の早さで、さきがけて咲く。
  • 廃道に咲くイワカガミ廃道に咲くイワカガミ。極楽渓の東尾根に、ダム工事に通った細い小径が点々と残っている。ドライブウェイから脇に入り、ドウダンツツジのトンネルをくぐりながら急坂をおりると、古道ぞいにイワカガミがひっそりと咲いていた。両側の木立はイヌブナの若木である。終日、誰一人通らない心に残る廃道であった。高さ八〇〇メートル。五月上旬
  • イワガラミイワガラミ。梅雨の六甲はアジサイの季節でもある。コアジサイにはじまり、ガクウツギ、ヤマアジサイ、タマアジサイ、イワガラミなどの花がつづく。なかでもこのイワガラミはマツなどの高い木にまつわりつき、特徴のある剛い葉とともに真白い花を根元から枝先きまでつける
  • ゴヨウツツジゴヨウツツジ。伺気なしに見ている葉もこうしたモノトーンの写真で見ると、その単純化された造形の美しさがひとしおである。5枚の葉のツツジからゴヨウツツジというが、この花は純白というより雪白色と表現したい色である。六甲ではかなり高く、ちょうどイヌブナ林に一致する所に多い
  • ヤマボウシヤマボウシ。うっとうしい梅雨空の下、ガスっている山肌からぽっかりと白くあざやかに浮き立っている花木。十字の花びらに見えるのは総ほうであって、花は中心の丸いかたまりの中に小さく集まっている。花の集合体であるこの塊りを坊主頭に見立て、白い総ほうを頭布にたとえてヤマボウシと名づけた。夏の終りに赤く色づいたこの実は、ほのかな甘味をもつ
  • 葉に実がなるハナイカダ葉に実がなるハナイカダ。この植物は珍しいことに、葉の表面から直接、蕾がでて、花が咲き、写真のように実ができる。今は緑色の実もやがて黒く熟する。雨上がりの葉に小さいバッタが休んでいた
  • ウツギ小さく、白い花がいっぱいに咲いているウツギ。幹の芯が空洞になっているウツロギ(空木)からウツギの名がついた。歌によくうたわれるウノハナのことで、これも梅雨の花である
  • オカトラノオオカトラノオ。日当りのよい道ばたに多い草で、獣の尾を思わせる総状花序に白い花をいっぱいつける。蝶が吸蜜によく訪れる
  • 六甲最高峰とその北面 六甲最高峰とその北面。六甲の山の深さは、南斜面では住吉川の上流、水晶谷や黒岩谷にみることができる。北斜面では湯槽谷の上流である。ロープウェイからの眺めは一面の緑におおわれ、見るからにおだやかな山容であるが、ハイキングコースからはずれて山中に入ると、急な崖が連続し、とても一人歩きはできない

無惨!

  • 盗掘の跡

    盗掘の跡 ミヤコザサをなぎ倒し、スコップでツツジをごっそり抜きとった盗掘の跡。ここは六甲最高峰近くの道路沿い、たぶん、車を横付けにし、さらうようにして積み込んだのであろう。ヤマツツジなら一本の小枝の挿し木でも楽に根付くのに…。年間数万人の眼を楽しませてくれた花は、来年からはたった一人の濁った眼をきびしく見返すことだろう

  • 切り倒されたブナの木

    切り倒されたブナの木 無惨に切り倒されたブナの成木。その傷口に再生した萌芽を健気とみるか、物悲しくみるか。わずか百本に満たないブナのうち二本を失ったのである。砂防工事の荷物運搬のコースにあたるので切りとられたものか、その理由はさだかでない。鳥居茶屋より南への尾根道、八五〇メートル付近
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