96号表紙

No.96(昭和55年9月)

特集:

六甲の尾根道

六甲の尾根道 ハイカーでにぎわう奥摩耶の掬星台。山寺尾根、黒岩尾根など数本の登山道がここに集中しているので特に昼食時はにぎわう
 

尾根あるき ―壮大な市街地の展望―
永楽 孝一(詩人)

山寺尾根の中腹地点、から杣谷ごしに長峰山を望む
  • もやにかすむ摩耶天上寺付近の稜線
  • 一歩一歩高度をかせぐ尾根の坂道
  • 長峰えん堤の河原。中央の山が山寺尾根、左は摩耶東谷、右が杣谷

山寺尾根

 谷ひとつへだてて、絶えず山寺(摩耶天上寺)を見ながら登るところからこんなかわいい名前がつけられたのだろう。表六甲らしい明るく、小気味のいい尾根道だ。
 長峰えん堤の河原から杣谷にそって少し山に入り、左に折れて尾根にとりつく。手入れのゆきとどいた道をー歩一歩高度をかせぐように登る。西側の摩耶東谷をへだてて、やがて摩耶ケーブル山上駅が真横に見え、それを過ぎるとロープウェイのゴンドラがまた横に見えはじめる。自分が今どのあたりを登っているのかが、これですぐにわかる。
 木が多いため東側の杣谷があまり見られないのが難だが、中間地点のやや上にーか所、杣谷とその向こうの長峰山の稜線が一望できる場所がある。格好の休息所といったところ。まもなく掬星台の展望台が目の上にせり出すように見えてくる。最後の急登はさすがにきつい。平均所要1時間15分、一般向き。

黒岩尾根

 そのスケールといい、内容といい、六甲山系随一の尾根道とほめる人が多い。地図を見るとわかるように、六甲全縦で知られている天狗道や地蔵谷がほぼ直線で摩耶山までのびているのに対し、この尾根は北へかなり遠回りして摩耶山へ到達する。その分だけ山深い感じがするし、ピーク付近からの眺望もまたすばらしい。
 市が原の天狗峡から尾根にとりついたとたんから、すごい急登が始まる。最初の登りで息が切れてしまうようでは、あとが心もとない。眺望のよい見晴らし台まで合計五度、大きな上り下りをくり返すのだが、この落差の大きさが他の尾根道とは違うのである。やれやれここが頂上だと思ったら、まだその先に谷があり、急な上りが待ちかまえているといった具合いで、疲れはいっそう倍加してしまう。足に自信のない人は、やはりこの道は避けた方が賢明だ。  休憩所からあとは比較的平坦な樹林帯の道で、一人では心細くなるような暗い湿地帯もある。山深い感じの実に気持のよい山道である。平均所要2時間半、健脚向き。
  • 黒岩尾根のピークを過ぎると、こんな薄暗い樹林帯の道が多くなる
  • 摩耶山をうしろから見る見晴らし台。しーんと静まりかえつて、いかにも山深い感じがする
  • 眺望のよい休憩所はもうすぐだ。背後には鍋蓋、菊水山が墨絵のように連なり、その右に鈴蘭台の住宅群がかすんで見える。
  • 休日でも黒岩尾根を行く登山者はまばらだ
  • 黒岩尾根のピーク近くの休憩所から望む帝釈山系の山並み
  • 尾根のピークに立つ三角点。きびしい登りのあとだけに、うっかりすると知らぬまに通り過ぎてしまう
  • にぎわう市が原天狗峡。すぐ目の前の山が黒岩尾根

天狗岩南尾根

 山上の天狗岩から渦森台団地への一気になだれ落ちるような尾根道である。それだけにのぼりはきついが、距離的には短い。
 白鶴美術館から渦森台団地へ行くバス道を北へ突きあたると西谷橋がある。ここから東へ折れると、危険な谷として知られる大月地獄、北西へ住吉山手9丁目の新しい住宅街を抜けると寒天橋に出る。この橋を渡らず、川にそって北へ進むとこれが天狗岩南尾根だ。
 尾根道にとりついてまなしにちょっとした岩場がる。なれない人は先行きが思いやられるだろうが、あとにはこんな岩場はない。そのかわり急登の連続で、団地の住宅がみるみる足下に小さくなっていく。
 中間地点を過ぎたあたりから急に笹が深くなる。時には背丈をこす葉っぱをかき分けながら進むので、道を間違えないようよほど注意が必要だ。上りより、特に下山の祭に道を間違えやすい。おかしいと思ったら、すぐ元の場所へ戻ること、絶対に低みの谷へおりようといないことだ。尾根より谷のほうが何倍も危険である。平均所要1時間15分、熟練者向き。
  • 天狗岩南尾根の深い木立の間から見る渦森台団地
  • 尾根のとりつき点にある寒天橋。以前は木造のひなびた橋だったが、コンクリートの立派な橋につけかえられた
  • 最後の急登で雑木林を抜けると立ちはだかるように天狗岩が目の前にあらわれる。ここから東へ6、7分のところに六甲有馬ロ一プウェーの天狗岩駅かあるため、岩の上から眺望を楽しむ家族連れも多い
  • 天狗岩南尾根の中腹から上は背丈ほどある夏草が茂り、道を間違えやすい。尾根の右側は危険な西山谷が深く切れ込んでいる
  • 天狗岩から見おろす市街地、正面は六甲アイランド
  • 天狗岩のすぐ近くを通る六甲有馬ロープェー。写真左手の建物は六甲ケーブル山上駅
  • 天狗岩の東にあるロープウェー天狗岩駅
  • 天狗岩からドライブウェイに出た所に加藤拝星子夫妻の句碑がある

長峰山〜杣谷峠

 東神戸の市街地から摩耶山を見ると、その東側に姿のいい山稜線がくっきりと孤をえがくように市街地へ落ち込んでいる。これが長峰山で、その項上が天狗塚である。
 阪急六甲から北へ、松陰女子大や六甲高校のある伯母野山を抜け、山へ突きあたった所から尾根にとりつく。木が少ないので、いつふり返っても市街地が一望できる反面、後から日差しをまともに受けるので汗をかく量もそれだけ多くなる。また道も、雨水の流れでかなりいたんでいて登りづらい。
 この山の本当のよさは、項上の近くから杣谷峠へ出る後半の道だ。特に天狗塚からの眺望は、六甲山系随一といわれるくらいすばらしい。ここに腰をおろしただけで、それまでの疲れなど一度に吹きとんでしまう。ぜひゆっくりと時間をかけて休息してほしい所である。あとは30分余り、しっとりと落着いた山道を上り下りすれば杣谷峠へ出る。平均所要1時間40分、健脚向き。

  • 表六甲ドライブウェイの鉢巻展望台から見た長峰山の稜線。この稜線にそって尾根道がある。写真右端部分のー番高いピークが天狗塚
  • 山頂付近の静かな山道
  • 細い尾根道をかくすように生い茂つたススキ(長峰山中腹付近)
  • 天狗塚から摩耶山を望む。写真左手のややこんもりした所が奥摩耶ロープウェイ山上駅。中央付近に摩耶ロッジが見える
  • 杣谷峠寄りの長峰山でオリエンテーリングを楽しむ児童たち
  • 裏六甲特有の岩はだをみせる地獄谷西尾根の水晶山。右側の深く切れ込んだ谷が地獄谷、その向うに大池の住宅街が見える

地獄谷西尾根

 裏六甲ではこの尾根道だけを紹介しているわけだが、いかにも裏のふんい気を十分に備えた堂々たる尾根である。なかでもここから眺める地獄谷の展望はスケール感にあふれていて見事である。尾根の梢を渡る風の音はもうめっきり秋の気配だ。
 地獄谷入口の道標の前を通って川のそばの山道に入ると、約10分で再び地獄谷と書いた小さい道標がある。ここから右へ折れ、木立の中の道をたどるとやがて尾根の登りが始まる。
 ここから小さなピークを三つ四つ越え、最後に水晶山を過ぎると、目の前にダイヤモンドポイントが見える。途中、一服するのにちょうどよい岩場や、きれいな松の木のある所などがあり、高度が変るたびに地獄谷の趣も違ってくる。ただ、ここも道の岩が風化して所々荒れた箇所があり、家族連れにはあまりすすめられない。平均所要1時間半、熟練者向き。
  • 樹林帯の静かな地獄谷道。地獄谷西尾根はここから右に折れて尾根にとりつく
  • 地獄谷の入口付近
  • 無気味に静まりかえった地獄谷。V字型に深く切れ込んだ山容はさすがにスケ−ルが大きい
  • 尾根の頂上付近の岩場ごしに見る大池の住宅街
  • 地獄谷を見おろしながら行く尾根の急坂
  • ダイヤモンドポイントで昼食をとる家族連れ。ここからの北神一帯の眺望はすばらしい

平野〜七三峠〜鍋蓋山

 平野から二本松林道を横切り七三峠を経て鍋蓋山に至る尾根道は、平野谷をはさんで東西に二本ある。このうち東側の道は山手女子短大横の再度筋を少し北へ入り、すぐに橋を左に折れて急な尾根道にとりつく。西側に比べると、東の方が中心街に近いだけに展望がよく、また木が多いので尾根歩きの趣もそれだけゆたかである。ただし道のアップダウンは東の方が大きい。
 この尾根からやや斜めに見おろすポートアイランドは、いかにも身近で躍動的だ。いやポートアイランドだけでなく何もかもが美しく、たのもしく見える。見る角度がよいのと、それに木々の緑を通して眺めるせいもあるだろう。
 何回かのアップダウンをくり返すうちに、ひょっこり二本松林道に出る。ここから再び急な登りになり、道を覆う夏草をかきわけながら進むとやがて七三峠である。ここから15分ぐらいで鍋蓋山から再度山に至るなだらかなパノラマ道に出る。平均所要1時間半、健脚向き。
  • 明るいアップダウンの尾根道
  • 鍋蓋山への尾根道を横切る二本松林道。正面は再度山
  • 東西の尾根道と二本の谷筋の道が合流する七三峠。鍋蓋山はもう目の前だ
  • 急な尾根道にとりついて最初のピークを登りきると、足下に市街地の展望がひらける
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