81号表紙

No.81(昭和54年6月)

特集:

水族館の人気もの

カラー特集:須磨離宮植物園

水族館の人気もの  子供たちの人気ものアカウミガメ。童話の浦島太郎の影響だろうか

水族館の人気もの

子供たちの人気ものアカウミガメ。童話の浦島太郎の影響だろうか

世界の魚が見られる須磨水族館


須磨水族館は年間85万人の観客でにぎわう

 「動物園と水族館と、どららが面白いか」と聞けば、「それは動物園に決ってるサ」という答が即座に返ってくる。それもそのはず、動物園の動物には、打てば響くような親しみ易さがある。ところがどうだ、水族館の魚の方は、ガラスの向うで、いつも知らん顔をしているのである。

魚はまばたきをしない

 魚にはマブタがない。まばたきをしないし、目をむき出しにしていて、どうしてもクールな感じになってしまう。だから、サルやクマのようなかわいさがないのだ、と思う。だが、これは全く人間の身勝手な感じ方。魚がもし考えるとしたら、まばたきなど邪道のすることだと思うに違いない。「だいたい、陸上の動物は、海や川で食いっぱぐれた魚の末えいが、仕方なしに陸に上ったものではないか。水の中なら目は、いつもぬれている。その目で陸に上ったら、乾いてしまうに決っている。やむをえず、まばたきなどという不便な方法で目をぬらしているにすぎないのだ。眠る時にも目をつむらねばならないとは情けないはなしだ」と魚はいうだろう。
 手足だって、そうである。水の中にいるあいだは、浮力で体を楽に支えられた。陸に上ったら、そうはいかない。重力に対抗して体を支えなければならないのだ。かくて、一対の胸ビレと一対の腹ビレの中に硬い骨ができて、前足と後足になったのである。オーストラリアの肺魚というのが水族館にもいるが、これなどは、三億年前、陸に上がろうとして、上がりそこねた魚の「生き証人」である。胸ビレ、腹ビレの中の硬い骨は、外から見てもよくわかる。こうみてくると、水族館の魚たちも急に身近かになってくるというものだ。

水族館のスターと大衆魚

 須磨水族館には、毎年約八十五万人の観客が訪れる。この観客が興味をもつ魚は何だろう。まず、人気投票の上位にいつも顔を出すのは、タツノオトシゴ、デンキウナギ、ピラニヤ。「観客は珍魚がお好き」のようである。ウミガメの人気も根強く、特に小さい子供たちのウミガメを見るまなざしは熱い。意外と観客に強い印象を刻みつけるのが、薄気味悪い連中。ウツボ、サメ、オニオコゼなどは、さしずめ悪役三羽烏というところか。はなやかさでよろこばれるのがミノカサゴ、きれいな魚だが、背中のとげには毒があるので、触れない方がよさそうだ。
 もっとも、スターだけでは世の中はもたない。タイ、アジ、ハマチにコイ、アユ、キンギョといった「大衆」が実は水族館を支えているのである。誰もが知っている、こういった魚たちをないがしろにしたら、観客は黙っていないだろう。思うに、日本人は本当に魚の好きな国民ではある。

森の水そう

 都会には空がない?樹々の緑と空の見える水そうが、ひとつぐらいあってもいいだろう。これが、「森の水そう」の発想である。二つの水そうには、アマゾンの巨大魚ピラルクー(一メートル八十)と、シベリアの自然に育つチョウザメ、(一メートル十)が泳いでいる。

外国からきた魚たち

 神戸は国際色豊かな土地柄である。そこで、須磨水族館は、世界中の魚が見られることを目標にしようということになった。かくていろいろな魚が、いろいろな国からやってきた。中には、神戸市の姉妹都市、友好都市からきた親善使節もはいっている。卵がキャビアで有名なシロチョウザメがアメリカ・シアトル市から、ロシアチョウザメがソ連邦リガ市から、中国人民に古くから親しまれているケツギョが天津市から贈られてきた。このほか、進化の「生き証人」肺魚もオ−ストラリア政府から日豪文化交流のしるしとして日本にはじめて届けられた。アメリカ・クリーブランド水族館からきた恐竜時代の魚、ロングノーズ・ガーなどは、二世が誕生して立派に育っている。といった具合で、今では三十ヵ国からきた八十種の魚が仲よく共存しているのである。
 魚の世界には、主義も主張も別にありはしないのだ。

魚は立派な野生動物だ

 ところで、昔にくらべたら、日本沿岸の魚が、まるで手にはいらなくなった。魚も減ったが、捕る漁師も少なくなったようだ。そこで水族館は、自分で網を作って魚をつかまえに行かねばならない。地引網、アクアラングによる潜り。だが、こうして海や川に出て行くと、自然が日に日に荒れてゆくのがよくわかる。もっとも、これは日本だけのことではない。世界中の自然が失われ、そこに住む野生動物が滅びつつあるのだ。
 こんな時代に、水族館は何のためにあるのだろうかと大マジメに考えてみた。水族館は、もはや見世物小屋ではなくなった。「都会の中で、人々が生きている自然を感じ取り、それを考える場所、それが動物園や水族館なのだ」と誰かがいったように思う。
 われわれのすぐそばにある海や川、そこにいる魚たちは一番身近かにいる立派な野生動物だったのである。

(須磨水族館長 吉田 啓正)

  • はなやかな衣裳をつけたミノカサゴ。背中には毒のあるトゲがかくされている。触れない方が無難
  • さかさまになって泳ぐサカサナマズ。アフリカ・コンゴの産。ピラミッドの壁画にも描かれている変なサカナ
  • イシダイの丸い大きな目

外国から来た魚たち


  • アメリカ・クリーブランド水族館から贈られた恐竜時代の魚、
    ロングノーズ・ガー。これは須磨で生まれた2世たち

  • 日中友好の親善使節・ケツギョ。おいしい魚として有名、
    友好都市天津市より寄贈された

  • 姉妹都市リガ市(ソ連)から神戸市に贈られた
    ロシアチョウザメ。この魚の卵がキャビア

  • 進化の「生き証人」肺魚、ネオセラトダス。
    オーストラリアから日豪文化交流の特別使節として贈られた
  • オスが子どもを生むタツノオトシゴ。妊父?の生みの苦しみは大変なものです
  • ウツボ。まるで地獄から来たインベーダー
  • 海のギャングなどといわれるが、実は、おとなしいドチザメ。コバンザメに吸い付かれ困っている

  • 何か食えるものはやってこないかな。待ちに徹するオニオコゼ


むつかしいイカの飼育

  • イカはデリケートな動物。ちょっとしたことでも驚いて体色を変え、スミを吐いて、水そうの壁に当り死んでしまう。だから、飼育が大変むつかしい。うまく飼えば、2本の長い手(触腕)をスルリと出して餌をとる。写真は、エビを捕えた瞬間のイカの表情
  • オス(上)とメスが寄りそって遊泳するコウイカ
  • 手製の地引網で、
    須磨の魚を採集する水族館の職員

須磨離宮植物園

  • 鑑賞温室のメインホール
  • 鑑賞温室の外観
  • 壁面を飾るつり鉢
  • 鑑賞温室のギャラリー室でスケッチ
  • 日本式庭園
  • ゲートに通じるレンガ道
  • 花ごしにのぞむ三段滝とロックガーデン
  • みどりの滝(森の広場)

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