76号表紙

No.76(昭和54年1月)

特集:

続 神戸の建物(下)

続・神戸の建物(下) 御影サニーガーデン。新しい低層テラスハウスのデザイン(東灘区住吉町)

続 神戸の建物(下)

御影サニーガーデン。新しい低層テラスハウスのデザイン(東灘区住吉町)

文化の香りただよう町並に


新長田地下鉄ビル。
都市空間に色どりとバラエティを加える
(長田区松野通一、昭和五十二年)

 人類は古代から神や人間が住まう容器(うつわ)を造るため、営々とした努力を重ねてきた。
 その容器をいかに大きく、高く、美しく、丈夫につくりあげるかは、永年の人類の悲願であったと言ってよい。
 古代エジプトのピラミッドも、中世ゴシックの大伽藍(がらん)も、東大寺の大仏殿も、より大きく、高く広い空間を求める人類の英知の所産であった。それは言い換えるならば、空間との戦いであったと言ってよいであろう。

問われる人間環境とのかかわり

 近代になって、十九世紀の後半に及ぶと、新しい構造力学の進歩と、強い鉄や鉄筋コンクリートの技術の発道、新しい建築材料の改良によって、人類の空間への挑戦はより一層巨大なものの出現を可能とした。
 エッフェル塔やゴールデンーゲートのような長大橋がつくられ、超高層のオフィスビルの建築はそのあらわれといえる。
 またその反面、いたずらに大きいものだけでなく、小さいものであっても密度の高い空間、人間的な尺度の空間を求める工夫も積み重ねられてきた。住宅建築や小規模建築のなかに珠玉のような事例をみることができる。
 現代の建築は、鉄とコンクリートとガラスの組み合わせのバリエーションだともいわれている。あの重たい壁、石や煉瓦で造られた組積造の壁にいかにして広い窓、大きな開口部をとろうかという長年の努力は、鉄筋コンクリートの片持梁(一端が固定支持され、他の端が自由な梁)の考え方によって、いとも簡単に解決された。壁面一ぱいを窓で覆うカーテン・ウォール工法の出現が可能となったのである。このような現代建築の発展は、それが合理的であり機能性を重視すればするほど、一方で、かっての重厚な様式建築についての再評価が求められるのも、また避けられない動きといえる。
 昭和四十五年、大阪千里の丘陵で展開された万国博覧会は"人類の進歩と調和"のメイン・テーマにふさわしく、三三○万平方メートルの広大な敷地に、世界各国からの参加を求めて壮大な祭典が催された。この会場を訪れた客数は六ヵ月間に延べ六、四二〇万人といわれ、数千億円にのぼる巨費をかけて現代建築のあらゆる分野での可能性の追求がなされた。
 一方、この頃から、このような建築と開発のなかで、都市の公害や開発による環境破壊が大きな社会問題としてとりあげられ、巨大建築の批判や建築設計と人間環境のかかわりあいが強く問われるようになってきた。

  • 垂水年金会館。明石海峡に臨んで、広々とした空間が展開する
    (垂水区平磯1、昭和48年)
  • 北区役所・北区民センター。庁舎建築は地域コミュニティの中核としての役割りをもつ。南面して扇形に開き日当りがよい
    (北区鈴蘭台西町、昭和48年)

  • 西山記念館。現代建築がもつ造形上の可能性を追求しており、
    外観は三角形、内部は円形というユニークな建物
    (日本建築業協会賞受賞、葺合区脇浜町3、昭和50年)

  • キャラバン神戸店。閉鎖的な白いコンクリートの壁面と、
    開放的なカーテンウォールの壁面との対比がおもしろい
    (生田区山本通一、昭和四十九年)
  • 高倉台小学校。低層とし柔らかさの表現を意図したデザイン
    (須磨区高倉台、昭和四十八年)
  • 香雪美術館。窓のない現代風宝物庫の意匠
    (東灘区御影町、昭和四十八年)
  • 神戸学院大図書館。大学のキャンパスに新しい景観をみせる
    (垂水区伊川谷町、昭和50年)
  • 神戸文化ホール。あじさいの花をあしらった壁面が目をひく。
    周辺に樹木や彫刻が数多い
    (生田区楠町、昭和48年)

  • グレース六甲。市街地の中で緑につつまれた低層集合住宅。
    水の流れをとり入れた中庭にその特徴がみられる
    (第2回神戸市建築文化賞受賞、灘区篠原本町3、昭和49年)

  • 電通神戸ビル。狭い土地に緑地空間を生みだした
    工夫の跡がうかがえる
    (生田区京町、昭和五十二年)

新しい使命をになう神戸の建物

 では、昭和四十五年万博のころより最近に至る神戸の町の建築の動きを眺めてみよう。
 万博はたしかにそれまでの高度成長の総決算の意味をもったが、その好況はさらにしばらく持続した。しかし、昭和四十八年秋のオイル・ショックによってその活況は急速に冷却していった。
 昭和四十五年の万博の年は、神戸の建築界にとっていくつかの実りある作品がつくられた。兵庫県立近代美術館がそれで、芸術院会員の村野藤吾の協力を得て、兵庫県営繕課の設計になったものである。高倉台に建つ県立子ども病院(兵庫県設計)も、東西の細長い壁に曲面を設け、やわらかさを表現しているのが印象的である。
 このほか、阪急御影の山麓に建った小原流の芸術参考館(清家清)、集合住宅万松園(竹中工務店)は、いずれも第一回神戸市建築文化賞を受賞した個性的な建物である。
 昭和四十六年、トアロードの一角にNHK神戸放送局(NHK技術本部、浦辺建築事務所)が出来た。淡いイエロー・グリーンの夕イルを張った曲面をもつ壁が、新しく、この坂道の町角を飾ることとなった。トアロードは、全国的に知られたショッピングの道であり、今後とも内容のある質の高い建築が建って、新しい町並みを形成していくことが期待される。

  • 中桐ビル。端整ななかに上品なセンスがただよう
    (第二回神戸市建築文化準賞受賞、葺合区生田町三、昭和四十九年)
  • 日本経済新聞神戸支局。小品ながらセンスのあふれたデザインが特徴
    (第二回神戸市建築文化準賞受賞、生田区中山手通六、昭和四十七年)
  • 神戸地方合同庁舎。広いスペースの緑の前庭をもったしぶい色調の庁舎建築
    (生田区海岸通、昭和47年)

鮮やかなアジサイの色タイル

 翌四十七年、国鉄新幹線の新大阪−岡山間が開通し、新神戸駅舎が新生田川の上流にオープンした。この年も数少いながら造形的にもユニークな作品が生まれている。その一つに県立スポーツ会館があり、さらに小品であるが、生田区役所の山側に小さいながら質の高い建築がつくられた。日本経済新聞社神戸支局(竹中工務店)の建物である。この建物は事務所と住宅の併用建築であるが、細身の洗練された現代感覚が強く感じとれる。
 翌四十八年は比較的建築活動が盛んで、景気が後退する直前の賑いをみせた。永年、市民にとっての願望であった神戸文化ホールが大倉山に出来、神戸駅前からのアプローチにみどりと彫刻の道がつき、その正面の壁面に、彫刻家高村光太郎の妻智恵子の描いたアジサイの花が色タイルで飾られている。
 またこの年、兵庫駅前に駅前再開発の一環として二十階建の市街地高層住宅二棟(住宅公団、東畑建築事務所)が建ち、新しい都市景観をみせた。このほか、東灘区御影に村山家の美術館として香雪美術館(竹中工務店)、六甲山の山合に市立自然の家(神戸市、坂倉建築研究所)、学校開放構想を最初から取り入れた高倉台小学校(神戸市、高橋建築事務所)、下水処理施設を内蔵した垂水年金会館(神戸市、安井建築設計事務所)、垂水区玉津地区の区画整理事業の一環として地域の文化施設的性格をもつ吉田郷土館(設計前記に同じ)、北区の独立による北区総合庁舎(神戸市)などがこの年に出来ている。

建築文化賞制度が発足

 続いて四十九年には、第二回神戸市建築文化賞を受けたグレイス六甲(大丸建築設計事務所)が、既成市街地の一角に、水の流れる通路を兼ねた中庭を挾んで二棟の低層集合住宅を組合わせて建ち、変化に富んだ空間構成で成功している。そしてこの年から神戸市では初めて建築文化賞の制度が設けられた。これは神戸市の町を美しく色彩(いろど)るうえで貢献した新しい建物を顕賞しようとするもので、四十九年度に発足し、五十二年度と今までに二回。延ベ十一件の建物がこの賞に選ばれている。
 この年は他に、甲南学園同窓会の平生記念館(竹中工務店)の穏健なデザインや、フランス風のマンサード屋根をつけたレンガ張りの西村珈琲店(竹中工務店)などが出来ている。
 五十年には、さきに完成したさんプラザビル(昭和四十五年)に引続き、三宮地区の市街地再開発事業の一環として、センタープラザビル(神戸市、日建設計工務)が地上十九階の高さで、新しく神戸三宮の玄関口にお目見えすることとなった。また川崎製鉄の西山記念館(川鉄、村野・森建築事務所)が脇浜に出現した。これは、三角形の敷地を利用した特異な外観をもつ建物で、造形上の表現に力点が置かれている。
 なお、四十年代の後半より、住環境の改善や都市の個性を再評価する気運が高まり、神戸ではその歴史を語りかける遺産として北野、山本地区の異人館を中心とした建築群が注目され、その保存の動きが高まるなかで、最近これらの洋館群と調和したかたちで、新しい商業建築が現われるようになってきた。キングス・コート(昭和五十一年)、ローズガーデン(昭和五十二年)、異人館クラブ(昭和五十三年)などの建物がそれである。

都市景観を守り、育て、創る

 神戸市では、昭和五十三年に"神戸市都市景観条例"を制定して、六甲山と大阪湾に臨む神戸の町の自然地形を基盤として、そこに展開する市街地の都市景観をよく守り、育て、創るための総合的な施策を打出すこととなった。
 北野、山本地区や、灘の酒蔵など既存の文化遺産の保全、旧居留地や海岸通なぞ神戸市都市計画発生の地の骨格を再評価すると共に、フラワーロードや、ポートアイランド、あるいは西神地区ニュータウンなどの新市街地の将末像について、新しい視野から都市景観の創造が図られることとなった。
 絵になる町造り、芸術性豊かな町並み、文化の香りが漂う人聞性の溢れた町のたたずまいを目指して、現代の神戸の建物はそれぞれに新しい使命をになうことが期待されるのである。
(神戸市教育委員会 坂本勝比古)


  • NHK神戸放送局。淡いイエロー・グリーンのタイルを張った曲面をもつ壁が坂道の町角を飾っている
    (生田区中山手通二、昭和四十六年)
  • 親和女子大付属図書館。レンガ色の落着いた壁面をもつ大学図書館。閲覧室の採光に力点が置かれている
    (第2回神戸市建築文化準賞受賞、北区鈴蘭台北町、昭和52年)
  • にしむら珈琲店。シックなハイカラさが北野・山本地区の土地柄によく合つている
    (生田区山本通3、昭和49年)
  • キングスコート。白いスタッコ(漆くい塗り)の壁面と屋根瓦がスペイン風の感じを出している
    (生田区山本通2、昭和51年)
  • ローズガーデン。鉄、レンガ、コンクリート打放し、ガラスで構成された端整な意匠
    (第2回神戸市建築文化準賞受賞、生田区山本通2、昭和52年)
  • 異入館クラブ。隣接する異入館との調和を目ざし、
    古典様式を現代風にアレンジしたユニークな作品
    (生田区北野町4、昭和53年)
  • 県立スポーツ会館。コンクリート打放しの壁面と思い切った造形が、コンクリートの可塑性を示している(長田区蓮池町1、昭和47年)

    兵庫駅前ビル。駅前再開発のー環としてU型につくられた20階建ての市街地高層住宅。ミニシティーとしての機能を満たしている
    (兵庫区羽坂通3、昭和48年)
  • 市教育会館。外装はレンガタイル張りで、アーチ型の屋根にヒツジの彫刻が飾られ異人館のまち・神戸にふさわしいふん囲気をかもし出している
    (生田区中山手通4)昭和53年)
  • 県立生活科学研究所。鋭角のスカイラインと、白い窓のひさしがアクセントである
    (ポートアイランド内、昭和五十三年)
  • 明治生命ビル。緑豊かなフラワーロードをはさんで、古いガス灯と新しいアルキャスト(アルミの成型外装材)の外壁をもつビルとが対じしている
    (葺合区磯上通八、昭和四十六年)
  • 神戸信用金庫本店。カーテンウォールの壁面にマジックミラーを用いた例
    (生田区浪花町、昭和四十八年)
  • 県中央労働センター。壁面はレンガタイルとカーテンウォールの構成
    (生田区下山手通六、昭和五十一年)

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