72号表紙

No.72(昭和53年9月)

特集:

山麓リボンの道(下)

山麓リボンの道(下) 異人館街の小道(生田区北野町4)

山麓リボンの道(下)

異人館街の小道(生田区北野町4)

北野・諏訪山のみち
美しくなった異人館

 ひところのような"異人館ブーム"はやや峠を越したとはいえ、相変らず観光客は多い。やはり若い女性が圧倒的で、カメラを肩に、そして地図を片手にぶらぶらする二人連れ、三人連れはすぐにそれとわかる。四国から来ましたという二人連れのお嬢さんに話を聞くと、もう三回目だそうである。土曜から日曜にかけて神戸に来て、朝のうちに北野の異人館街を歩き、それから三宮のショッピング街をぶらついて午後の船で帰る。それこそ時計を見ながらのせわしい散策だが、「なんとなく気持がスカッとするんです」と、そのお嬢さんは明るく笑った。
 明治の神戸開港直後に、いち早く外人がここに目をつけ家を建てたというだけあって、さすがに神戸の一等地である。明るく、スマートな神戸の中心街と活気のある港を真直ぐ見おろし、すぐ後は緑濃い山が迫っている。坂道をゆっくり歩いて下っても、中心街へ出るのにさして時間はかからない。異人館が建ったからいい町になったのではなく、もともと神戸の良さを凝縮したようないい高台だったのである。
 今年に入ってからだけでも、何軒かの異人館が改装したり壁のペンキを塗りなおしたりして一段と美しくなった。一方、大型のモダンな店や、新しいマンションや建売り住宅もどんどんふえている。場所が場所だけにそっとしておくわけにいかないということなのだろうか。
 北野町一帯を歩いてやっぱりいいなぁと思うにつけても、この良さだけは何とかもち続けてほしいものだと、つい考え込んでしまう。


  • 10月中旬に"異人館センター"として
    公開されるオバーライン邸(生田区北野町2)

  • 外人の姉弟(トアロ−ドで)

烏原へのみち
古いたたずまいのまち

 "山麓リボンの道"の八つのコ−スの中で一番わかりにくいのが烏原のみちかも知れない。まずはじめは、五宮町バス停手前の細い筋を北へ上り、禅寺で有名な祥福寺を経て、古い家並の間をすりぬけるようにして平野の祇園さんに出る。細い道が入り組んでいるので、はじめてだとこの辺がちょっとわかりにくい。しかし、わかりにくいというのは通りが一本調子でないということであって、歩いてみるとなかなか楽しい道である。それに道がわからなければ、近所の人に聞けば簡単に教えてくれることだ。
 楽しいというのは、一言でいえばこの一帯が歴史の古いまちだということだろう。随所に、いかにも風格のある古い家に出くわす。その門構え、石垣、板べい、それに庭の木ひとつ見ても周囲の変化に見向きもしないような落着きがある。市内を通じてこんなふんい気を持つ通りがだんだん少なくなっていくのはさびしいかぎりである。
 祇園さんからは有馬街道をわたり、湊山温泉、天王温泉を経て再び細い道をぬけ烏原へ向かう。このあたりも道はわかりにくい。烏原水源池が近づくにつれ、急に奥深い山道にさしかかったような気分になるが、人家はこの貯水池をひしひしと攻めるような感じですぐ近くまで密集している。それにしても、しーんと落着いたふんい気はやはり貯水池独特のもので、ついでに池の回りの"水と森の回遊路"に足を伸ばせば、その良さがさらに満喫できる。
 貯水池横の墓地をぬけ、見晴らしのよいゆるやかな坂道を西へたどると氷室町である。

  • 禅寺で有名な祥福寺の山門から
    市街地を望む(五宮町)
  • ひっそりとした石垣の家(五宮町)
  • 静かな石積みの道(五宮町)

  • 黒い木の電柱がこの通りには似合う
    (兵庫区梅元町)

  • 烏原のなだらかな山道
  • 温泉の横を流れる天王川
  • レンガ塀の道(湊山町)
  • 高取山のふもと。
    西山公園のふじだなから望む景観(長田区西山町4)
  • 大きなクスノキのある氷室公園
  • 氷室公園への道
  • 島原貯水池と“カメの石”

高取山のふもと
親しみやすい高取山

 どの区にもシンボル的な存在はある。しかし、一つだけにしぼってコレだということになると案外むずかしいものだが、その点、長田区の場合は文句なく高取山だろう。
 山並の続く背山の中にあって、高取山だけは独立している。だから山の高さの割りにはいつも堂々として見える。区民にとって、朝な夕なに見る山はいわば心のよりどころであり、小さいころからさまざまな思い出のある"おらが山"なのである。
 苅藻川に沿うようにして名倉の町を南へ下ると、こんもりした森があり、ここに平盛俊塚がある。盛俊は源平一の谷合戦の際、生田の森、一の谷の別軍として長田の奥(明泉寺付近)に布陣した平家軍の侍大将だったが、源氏方に討たれた。ここからほど近い大日寺には平知章の墓もある。源氏方にしろ、平家方にしろ、源平合戦のなごりには不思議と感傷がわいてくる。
 そして苅藻川を渡ると、もう高取山の領城である。川を北へ回り込むようにして西山老人いこいの家の前から西山公園へ上る。ここは公園というより、高取山のふもとにつくった展望台のようなものでパッと眺望がひらける。山際の新しい住宅街をぬけると、なだらかで気持のいい山の林道が待っており、豊春稲荷を過ぎ、やがて本道に合した所から南へ下る。
 山のハイキングコースを歩くのはほんのこれだけだが、少し足の達者な人なら西山公園の西側から高取山国有林登山道を迂回し、同じ本道ヘ出るとよい。途中、景色のいい所にはベンチもあるし、いろいろな種類の木もあってまた別の面から山の良さがわかるはずだ。

  • 平盛俊塚(名倉町1)
  • 苅藻川にそって…(長田区名倉町)

    高取山のふもとから見た市街地。
    正面に長田神社の森と新長田駅前ビルが見える

  • 高取山参道本道にある
    お稲荷さん(大谷町)
  • のんびりと山道で休む親子
  • 山ふもとの道

  • 鷹取団地(長尾町)

  • 高取山の山道

須磨のみち
しっとりとしたふんい気

 東から順番に八つのコースを歩いて一番に感じたことは、まさに百聞は一見にしかず、どのコースでもいいから一度歩かれたらいかがですか、ということである。それも東に住んでいる人なら西、西の人は東というようにむしろ知らない所を歩いた方が楽しい。こうして思い切って足を伸ばしてみると、不思議と自分の住んでいる生活範囲というのがどんどん広がってくるように思えてくるのである。同じ神戸に居ても、せまい範囲で住むのと、広い範囲で住むのとでは相当な違いである。これはやはり一歩一歩、時には道を間違えて遠回りをしたり、人に道をたずねたりして歩かないと、この感覚はわかってもらえない。
 こんなことを思いながら、滝川高校の北の道から妙法寺川の橋を渡り板宿町に入ると、町全体に何となく古い感じがただよってくる。ここから大手町をぬけ、ゴルフセンターを回り込むようにして北へ上がり、護国寺の石標のある所から左の小道へ入ると、やがて聖ヨハネ寮(社会福祉施設)前に出る。この辺までが一般には比較的なじみの薄い道で、ここからいったん自動車道に出るのはわずらわしいが、あとは須磨離宮公園、離宮道、須磨大池と見どころをたどって行けば案外わかりやすい。
 しかも途中は、昭和初期の代表的な建物の一つとされる離宮公園前のM邸や、板ベイの続く静かな通り、単車しか通れない細くくねった道……と、いかにも須磨らしいしっとりしたふんい気の連続で退屈しない。特に関守稲荷から山電須磨駅に至る細道は"リボンの道"の最後をしめくくるのにふさわしい、感じのいい坂道である。

  • 整備すすむ須磨離宮公園花の園
  • 古い屋敷塀の続く道(板宿町)
  • 青い空、濃い緑、白い建物。
    明るく若々しい夢がふくらむ
    (須磨区奥山畑町、聖ヨハネ寮)
  • 妙法寺川にかかる木の養老橋(須磨区養老町)
  • 植込みの多い静かな道(大手町)
  • 石臼(うす)のある道(桜木町)
  • 美しく整備された須磨離宮公園の石垣
  • いつも主婦でにぎわう須磨霊泉(須磨寺町)
  • 見事な配色で人目をひく離宮公園前のM邸

  • 細くくねる石の坂道(関守町)
  • 海に向かってのびる離宮道

    今も美しい須磨大池

イラスト地図 丘あつし


ページトップへ