56号表紙

No.56(昭和52年3月)

特集:

神戸市営地下鉄開業

神戸市営地下鉄開業 52.3.13 振動の少ない車両 ゆったりとした車内

"みどりの市営地下鉄"開業

 神戸市営地丁鉄西神線(名谷ー新長田、五・七キロ)が三月十三日から営業を始めた。この日、一番電車がスタートした名谷駅では、一番乗りをねらう人たちが前夜から続々と詰めかけ、午前四時五十分に駅のシャッターが開くと同時に五、六百人が自動券売機に殺到した。新長田駅からは午前五時三十八分、始発電車が発車したが、ここでも同じような情景が見られ、"みどりの地下鉄"に対する人気のものすごさを見せつけた。この日だけで約七万人が乗車、車内はもちろん各駅舎も終日混雑した。
 一方、この開業を祝う晴れの式典は十二日に行われた。午前十時五分、宮崎市長と吉本市会議長が新長田駅改札口でテープカットしたあと、来賓と一緒に式典電車に乗り込み名谷駅へ。板宿、妙法寺、名谷の各駅でも順次開駅式が行われ、そのあと午前十一時から名谷駅コンコースに来賓、関係者約千二百人が参列して開業式典が行われた。宮崎市長の喜びのあいさつ、安好市交通局長の工事経過報告、来賓祝辞などがあリ正午前、式典は終った。

開業のテープを切る宮崎市長と吉本市会議長(新長田駅)

21世紀の神戸を築く布石
宮崎市長あいさつ

 私は神戸の町づくりを行うに当って、新しい時代感覚のもとに長期の見通しをたてながら進めており、すでに二〇〇一年を目ざした新総合基本計画をたて、将来の構想を樹立している。須磨ニュータウン始め西に展開する西神地区はこれから新しい町づくりが進められる広大な地域であり、これらの地域と市街地とを結ぶ大動脈としての地下鉄は、二十一世紀の新しい神戸を築くために欠くことの出来ない布石である。
昭和四十七年十一月着工以来、四年四ヵ月名谷〜新長田間五・七キロ、建設費五百七十億円に達する大事業であったが、ここに無事完成し、三月十三日から営業を開始する運びになったことは多くの方々のご尽力とご協力によるもので、厚くお礼を申しあげたい。
ちょうど六年前の四十六年三月十三日、みどりの市電として親まれた路面電車が惜しまれつつ消えていったのがこの日であり、くしくも同じ日に、みどりの地下鉄として装いも新たに登場することになった。また、大正六年市営交通事業創業以来、本年は六十周年に当る。この年に、市営地下鉄開業第一年を迎えることが出来たことは誠に意義深いものを感じる次第である。
この地下鉄の建設に当っては安全、正確、迅速な運行のため最新の技術を導入するとともに、駅施設や車両の設計についてもみどり鮮かな車両や、各駅がそれぞれテーマをもち一目でそれと分かる工夫をするなど、ユニークな地下鉄が出来上がった。この地下鉄により、将来の人口十二万を擁する須磨ニュータウンと副都心新長田とは僅か八分で結ばれ、新しい町づくりに画期的な飛躍をもたらすことだろう。
引き続き山手線の建設に着手し、さらには西神地区への延伸についても検討を進めるなど、今後とも市内交通網の整備、拡充に努めたい。

ボクらは"一番乗り"

時計の下で会いましょう―名谷駅コンコース

名谷"春の駅"

 名谷駅は愛称が"春の駅"。ニュータウンの玄関にふさわしく、明るさの中にも全体にゆったりとした貫禄がある。ホーム両側のノリ面には春に咲く花木が植えられ、駅舎西正面の壁画「春の風」もひときわ鮮やか。駅前の広いバスターミナルにせわしくバスが出入りするようになると、駅の最新機能はますます本領を発揮する。

明るくカラフルな妙法寺駅

妙法寺"秋の駅"

 妙法寺駅は"秋の駅"。赤茶の屋根をもつ山小屋風の駅舎は見るからに親しみの持てる感じ。全体が小じんまりとカラフルで、ホームの壁にクリやカキなどの陶板レリーフを飾ってある。駅周辺のノリ面は秋になると紅葉で色づけする。ここも駅前にバスターミナルがある。

人造大理石の六角柱に丸い天井の照明

板宿"板の駅"

 板宿駅は地名にちなみ"板の駅"。ホームはシックな板目でデザインしている。将来は地下1階のコンコース北側で山陽電鉄と連絡する。

板の木目をデザインしたホーム壁面

新長田"ハトの駅"

 新長田駅は"ハトの駅"。百羽を超すアルミ箔(ハク)のハトがホームをはさんだ両側の壁を飛びかい、このほかレンガの吹抜けや泉まであって、くつろいだ気分にしてくれる。地下一階のコンコースからエスカレーターで国鉄新長田駅に連絡している。

四年四ヵ月の難工事

土と水との闘い
市街地地下と山岳トンネル

板宿シールド到達(50年6月)

深夜の車両搬入(51年1月)

名谷ヤードに搬入された車両の組立て作業(51年1月)

車両第1号の披露(51年2月)

市営地下鉄名谷駅の壁画「春の風」

 市営地下鉄路線の大きな特色は、いわゆる市街地地下隧道と山岳隧道的な二つの性格を持っていることである。新長田から名谷まで五・七キロのうち、新長田から須磨女子学園下までの約二キロが市街地部にあたり、そのあと山にとりついてからは一部の地上部を除くほとんどが山岳トンネルで海抜約百メートルの名谷駅に到着する。
このような地形・地質から、市街地部においては山陽電鉄との立体交差、板宿商店街下の通過や一部民家の立退き問題など、また山岳トンネルでも湧水や断層破砕地帯に遭遇するなど、困難な工事の連続だったといえる。昭和四十七年十一月に着工してから開業まで四年四ヵ月の歳月がかかった。

板宿商店街下の地下水

 難工事のあとをふり返ると、まず新長田駅付近は国鉄山陽本線の北側に並行して隣接しており、二十四時間運行の国鉄に影響があってはいけないという配慮から地中連続壁による土留をし、オープンカット工法で施工した。
次に千歳小学校のグラウンド下の掘削工事は、四十八年の夏休み中に杭を打込んでいったんフタをし、それから約一年間にトンネルを築造、四十九年の夏休みに埋戻しを行いグラウンドを元どおり復旧して、学校の授業には何ら支障のないまま工事をすませた。
山陽電鉄板宿駅付近および板宿商店街下のトンネル工事は、商売に一日も支障なしにどうしてここを通過するかが最大の課題だった。しかも山陽電鉄と立体交差するため、同電鉄の地下化を考慮してその分だけ深く掘らなければならない。その上、付近一帯は砂礫層の地質であり、調べると高取山や須磨アルプスの谷合から流れてくる地下水が豊富であることがわかった。 そこで、専門の学者などの意見も聞き、技術者が何日も協議した結果、最前の努力と注意を払えば何とかやれるのではないかと単線並列シールド工法の採用を決定、まず直径約三メートルの水抜きトンネルを掘り、これで水をしぼって水位を下げたあと、列車の通る直径約七メートルの本トンネルを上り下り一本ずつ掘ることにした。
つまりモグラのように地中を掘っていくわけだが、準備工事の万全をはかり、本線シールドの工事では一日平均にして約三メートルしか掘り進むことが出来ず、両線合わせて、目的地点に達するのに六ヵ月もかかった。
板宿商店街付近を抜けると、いよいよ妙法寺川を横断して山にとりつく。ところがこの一帯も民家が多く、掘った土を搬出する道路がないので約六百メートルにわたって狭い妙法寺川の中を車を走らせ、土砂の搬出、工事用資材の搬入に使った。これは以前、市の東部海岸を埋立てた際、住吉川の河床にダンプ道路を作ったのと同じ発想で、工事に伴う交通の混雑や騒音防止などに役立った。

横尾トンネルは"逆掘り"

 山にとりついてから妙法寺駅までの約二・一キロの横尾トンネルと、妙法寺駅から名谷駅までの約一・三キロの落合トンネルが山岳トンネルである。横尾トンネルは六甲山系特有の花崗岩質で千分の二九の勾配。普通ならトンネル工事は低い方から高い方へ掘るものだが、南の板宿側への大量の土砂の搬出がむずかしいため、ここでは、わざわざ北の妙法寺側から逆(さか)掘りした。重いものを運ぶのも低い方へおろす方がはるかに楽だし、湧水も低い方へ流れるので、逆のやり方をするとそれだけ負担が増すことになる。貫通までに横尾トンネルは一年十一ヵ月かかった。
落合トンネルの妙法寺側抗口付近は六甲花崗岩と神戸層(三紀層)の接点にあたり、特にそのうちの約百メートルは土が非常にもまれていて地すべりを起しやすい危険があった。
そこで、この地点を避けて通るべきかどうかについても真剣に検討されたが結局、わが国ではまだ新しくやり始めたばかりのパイプループ(水平工法)七○メートル長を用い、また、出来る限り機械掘りとし発破の使用を最少限度にとどめるなど、細心の注意を払って工事を進めた。それまでわが国ではこの工法で三十メートル以上の実例はなかったが、市営地下鉄の工事を契機に今ではこの程度の使用が常識のようになっている。落合トンネルは貫通までに十ヵ月かかった。

手のよごれないキップ

 一方、地下鉄の乗り心地、安全性、スピードといった面も万全の配慮がされており、まず車両は長年愛された市電と同じ緑を基調としたツートンカラー。振動を少なくするため空気バネを使っているほか、窓も大きく、冷暖房完備。新長田〜名谷間を約八分で走る。各駅とも自動券売、自動改札で、国鉄や私鉄で現在使用している自動券売のキップは手がよごれるが、ここではインクを使わず熱を加えるだけなので全くよごれない。
列車の運行については、運転指令所に列車の運行状態がひと目でわかる表示盤を設置、自動列車制御装置(ATC)自動列車操縦装置(ATO)など最新の安全運転設備をとり入れ、高周波の信号波によって自動的に列車を減速させたり、停止させたりする。
また、急な勾配を下る際に列車のブレーキによって生じる電力を従来のように熱に変えて放ってしまわず、これを変電所で回生し、駅の照明や空調、排水などに供給する。省エネルギーと安全対策をかねた一石二鳥のアイデアで、これも日本で初めての試みだ。
(神戸市交通局高速鉄道部長 古林二郎)

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