29号表紙

No.29(昭和49年8月)

特集:

動物たちと夏

動物たちと夏〈王子動物園〉
こんどは少し時間をかけて動物園へ通ったが、見ているうちに何度かふきだした。思わず手をたたいてほめてやりたくなった動物もいる。何気ない動物たちの仕ぐさには、育った環境や習性の違いがよく出ている。じっとその顔を見ていると、厳冬の南極や酷暑のアフリカ大陸などが、つぎつぎ浮かんできた。
(写真協力・王子動物園 福田元二、亀井一成、岸田一也氏)

北極グマ

ダイビング

 上からカッコよく飛び込むクマと、下で見とれるクマ。人間から見ると、いいカッコをしているのがオスで、見上げているのがメスとつい思いがちだが、王子動物園ではメスしか高い所から飛び込まない。女性上位型だ。見事なダイビングはオスに対する自己表現であり、あるいは、観客に対してもそのスタイルを誇示しているのかも知れない。北極育ちだけに、夏になると水中にいる方が多い。
 色が白く、流線型のスマートな体つき、しかも泳ぎが上手とあって子供たちの人気の的だが、非常にドウ猛。ウソか本当か、北極でアザラシを襲う時、このクマは背を低くし、ハナの先の黒い部分を手でかくして近づくという人がいる。白一色の世界で、音もなく獲物にしのびよる白クマを想像しただけで背筋が寒くなる。氷にすべらないよう、足の裏に毛が生えている。
 性格的にもくいしんぼうで好奇心が強く、お客のほったホークや空缶、石ころなどを平気で口に入れ、係員をひやひやさせる。

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ゴリラ
夏はこれにかぎるネ

 動物の中で人間に近いゴリラは、喜怒哀楽がはっきりしており、臆病、神経質で、なかなかのきれい好きだ。部屋がよごれていると、いやがったりする。水浴びは、やはり暑い日ほど回数が多い。時には20分ぐらいのんびり水につかっていることもある。あまりお目にはかかれないが、そのうちに気持よくなり、ごろりとウデまくらで寝てしまう。
 ふつう野生のゴリラは、水浴びはあまりしないし、水分もとらない方だといわれる。ところが、このザーク君は水浴びが好きで、牛乳、コーラ、ジュース類など何んでも喜んで飲む。かしこい動物なので、環境の変化にけっこう順応できるのだろう。

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ドラミング

 ゴリラの"胸たたき"は、一般に想像されているよリテンポが早い。腹をつき出すようにしてそり返り、大きな胸を両手のユビをそろえてポンポンポンポンとやっては、しばらく休む。ポンポンといい音が出るのは、胸に空気の袋があってそれをたたくからである。いずれにしろ、この時のゴリラは得意満面で、野性の叫びとでもいうか奇声をあげる。
 このドラミングを、アフリカの土人の饗(きょう)宴がクライマックスになった時と相通じるものがあると、説明する人がいる。ドラムと踊りが最高潮になった時の、土人たちの誇示と恍惚(こうこつ)の様子が、ゴリラにもぴったりだというのである。なるほど、ダレもいないところでゴリラはドラミングをしない。何かの刺激で興奮した場合にすることが多い、などを考えると、やはりこれで自分の強さと得意ぶりを見せているわけだ。

サル

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サルの"ノミ取り"

 ノミを取る仕ぐさによく似ているところから、俗にサルの"ノミ取り"といわれる動作だが、これはノミ取りではなく、フケ取りである、汗のなかにふくまれている塩分をとる行為で、毛をすくようにして皮フのよごれをとりながら、皮フに適度の刺激を与える。いわば毛づくろいをしているわけだ。毛づくろいは、皮フを清潔にすると同時に代謝を活発にする働きがあり、サルにかぎらず、動物にとって絶対に欠かせない。
 毛づくろいをしてもらっているサルは、実に気分がよさそうである。その相手によって、たとえば親が子にしてやる場合は愛情であり、メスとオスが配偶者関係にある場合はお互いが毛づくろいをしあう。またけんかをした相手に、ちょうど人間がおべっかを使うのと同じような服従行為もある。

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  • 写真見ザル、いわザル、聞かザル 人工飼育で大きくなったチンパンジー
  • 写真日本一の"美男子" マンドリルのオス

ヒマラヤグマ

 同じオリにいる日本グマと取っ組みあいの"レスリング"をよくするが、最近はやや肥満体。遊びつかれてどっこいしょ、あるいは、こう暑くては動くのもしんどいヮ、といったところ。胸の"月の輪"が日本グマよりはっきりしている。

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ライオン

 ライオンはめったに水に入らない。水に入ってブルンとしぶきをあげているこの若夫婦のメスは、水が流れて動くのに好奇心をもったのだろう。オスが"大丈夫かい?"と心配そうだ。

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カバ
大口あけて

 カバの大口といって、大きな口をあけると顔全部が口になってしまいそうだ。よくなれた人が近づくと、大きな口をあけてみせる。カバにとってこれが精いっぱいのご愛敬のつもりらしい。
 一方が大きな口をあけているのに、片方はまるでチャックをしたように、むっつりしている(写真上)ユーモラスなこの写真は、カバの"虫の居所"を知るうえでも大変おもしろい。水中でバシャバシャやっている2頭も、これでけっこう楽しくふざけあっているわけだ(写真下)
 カバの目とハナは少しつき出ており、目のうしろに小さな丸い耳がついている。だから目とハナと耳をちょっと水面に出しているだけで、体を水中にかくすことができる。ただ前が見えにくいので、子どもはいつも横において見守ってやらなくてはならない。

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トラ

水浴び

 気持よく水につかりながら、片足をコンクリートのはしにかけた構えは一寸のスキもない感じ。そして湯あがりならぬ、水あがりの素早いジャンプ力はさすがである―、といいたいところだが、このメスのシマ子は赤ん坊の時に買われてきて人工で育ったので、人間にはよくなれている。
 飼育の係員がオリに近づくと、物かげにかくれてこっそりのぞき見しながら、サッと飛びかかる。しかしこれも攻撃の動作でなく、水あがりのジャンプと同様、陸上で獲物をねらう時のかっこうが身についているだけで、トラにとっては一種のゼスチュアであり、遊びである。なれた人がハナ柱をなでると、声をだしてよろこぶ。やはり"氏より育ち"というところか。また、うしろの力ベにしょっちゅうおしっこをかけて、自分のナワ張りを決めている。
 夏の暑い日は、ひる前の11時前後と、午後の2〜3時ごろに水浴びで涼をとることが多い。

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混血コウノトリ

 アジアコウノトリとヨーロッパコウノトリ(別名シュバシコウ)の混血で、王子動物園にしかいない。中国産のアジアコウノトリは、秋になると偏西風にのって日本へもときどき飛来するといわれ、特別天然記念物として保存されている日本のコウノトリと何ら変らない。昔はもっと飛来して日本に住みついたとみられるだけに、コウノトリの保存についても、日本のせまい範囲に限らずアジアを対象に考えるべきだとの説もある。

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キングペンギン

 暑さに弱いため、4月中旬から10月下旬まで冷房、殺菌灯つきの特別室ですごす。卵をうむと、寒い南極でするのと同じように下にはおかずに自分の足の甲にのせ、たるんでいる下腹の羽毛で上から包んであたためる。卵がかえるのに約45日かかるが、この間親はエサもひかえめにし、立ったまま卵をかかえている。写真の右側が卵をだいたペンギンで、ツメを立て、シッポで体を支えるようにして立っている。

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仲むつまじいカンムリヅルの夫婦

カンガルー

ボクシング

 カンガルーは元来ボクシングの素質があり、人間に訓練されなくても、野性のカンガルーのなかにもたいへん熟達したボクサーがいて、お互いになぐリ合って腕をみがいている。"第3の足"といわれる太いシッポで立った体を支え、手でなぐるだけでなく、相手の手を持って足でけるのも上手だ。普通はピストンのストレートが多い。オスの勢力争いがなぐり合う主な原因で、力関係がはっきりしてくると次第にその回数はへる。
 カンガルーの母親のおなかの袋は"天然の保育箱"である。生まれたての子は人間の小ユビの半分ぐらいしかない未熟児で、袋の入口まで母親がなめてつくってくれた通路を、必死ではい上がり袋に入る。そして5か月ぐらい母親の袋の中で乳を吸いここで一人前に育つ。袋から顔を出し、しばらく出たり入ったりするうちに、体が大きくなって袋に入れなくなるわけだ。

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サイ

時速50kmの突進

 生後1週間ぐらいのサイの赤ちゃんが早くも母親の"特訓"をうけている(写真上 昭和44年10月)。それから約5年、今ではその母親とほとんど変らないくらい立派なオスに成長した(写真下 左がオス)。
 アフリカ産のクロサイを誕生させたのは王子動物園が日本で最初で、昭和38年から3頭の子サイを育てている。生まれた時の子サイの体重は40〜45キロ、それが生後40日ごろには80キロもあり、毎日1キロずつふえていることがわかった。おとなになると1.5〜2トンにもなる。それでいて、実に身軽に、音もたてずに時速50キロのスピードで走る。サイの直撃をまともにくったら、どんな動物もひとたまりもないだろう。

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ゾウ
ボクのハナ便利だゾ

砂浴び

 動物園で小学生などの写生会をすると、ほとんどの児童はゾウを土色か、ひどいのになると茶色で描く。ゾウのハダは実際はもっときれいな灰色なのだが、砂浴びや泥(ドロ)浴びが好きなためせっかく水浴できれいにしても、すぐ長いハナで砂やドロを体中にふりかけ、どろんこにしてしまうからだ。
 見た目にはきたないが、この砂浴びは、ゾウの美容法であり、健康法である。ゾウの体には薄い毛がショボショボと生えているだけで、大きい割に皮フが弱い。だから砂や土を浴びて保全し、またこれでハエやアブのくるのを防いでいるわけだ。時には、部屋に敷いてあるワラや、エサまで体にぶっかけることもある。
 ゾウが水を飲むときは、ハナから飲むのではなく、まずハナで水を吸いあげ、それを口に注ぎこんで飲む。このほか、大きな木を引き倒すほど力がある一面、落ちている落花生のような小さい食物を拾いあげて、ヒョイと口の中へ入れることもできる。また長いハナをお互いにからませるのは、愛情の表現でもある。

  • 写真ハナで砂をすくいパッと背中へぶっかける
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べビーラッシュ

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夕立ちのあとのひととき グレビーシマウマの親(右)と子
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