11号表紙

No.11(昭和47年8月)

特集:

かけがえのない神戸

よりよい環境への挑戦 世界、日本、そして神戸

新しい希望への旅路
国際協力で地球を守る
国連人間環境会議

 「われわれは、きょう、新しい希望の旅路に出発する」―。スウェーデンの首都ストックホルムで開かれた国連人間環境会議の開会式で、ストロング環境会議事務局長は冒頭の基調演説をこうしめくくった。そして六月五日から十二日間、百十四カ国の代表が真剣に討議し、歴史的な「人間環境宣言」を採択して世界の人たちに訴えたのも、やはり、われわれの地球を守る戦いはきょうが出発点なのだ…という、切実な実感ではなかったでしょうか。
 宇宙ロケットから見た地球は、広大な宇宙の砂バクの中に浮かぶ青いオアシスだといわれます。人間にとってこの小さくで丸い地球は、かけがえのない、たった一つの共同の住家です。
 世界と日本、そして神戸―。いまや全人類が協力し、世界中の国が環境の保護と改善に責任を持つ新しい第一歩を踏み出しました。神戸の環境をより良いものに守り育てていくために、私たちもまた力強く前進をはじめたのです。

よりよい環境へ4つの原則

世界の平和 貧困からの解放 人間尊重の技術革新と開発 都市問題の解決

 環境会議ではいろいろな訴えや意見が各国から出されました。そのなかでやはり印象的なのはいわゆる"南北問題"で、先進国のいっている環境問題と発展途上国のいう環境問題では随分大きなへだたりがあります。先進国は経済発展、開発優先のヒズミとして出てきた各種の公害を地球的規模で良くしよう。つまり開発をできるだけ抑制しようという意見に対し、発展途上国は貧困こそが最大の環境問題だということで、たとえば食料や住宅の不足、伝染病予防、経済格差の是正など、いわば人間の"生存の原点"にかかわる問題が出されました。
 「地球の環境を汚染しているのは先進国の責任であり、汚染規制によって発展途上国の開発を妨げる権利は先進国にない」「先進国が環境対策費をふやせばそれだけ対外援助が減るので、それに見合う財政援助をせよ」などの意見が赤裸々に発展途上国から出され、国際協力のむずかしい一面をのぞかせました。
 また、核実験の停止を含む戦争の問題に多くの国が関心を寄せ、スウェーデンのパルメ首相が「戦争こそ環境破壊の最大のものである」と演説し、盛んな拍手を受けました。
 このような会議の空気につぶさにふれて、日本政府代表団の顧問として会議に出席した宮崎神戸市長は、より良い環境のために"四つの原則"をあげています。
 まず第一の原則は、世界が平和でなくてはいけないということです。原因はどうあれ戦争は絶対に避けなくてはなりません。
 第二は、貧困からの解放と人種差別をなくすことです。そのためには発展途上国の努力も必要ですが、先進国はこれらの国に対して経済援助、技術援助をし、世界各国の所得の格差をできるだけ少なくすべきです。
 第三は、人間尊重の技術革新と開発です。そして第四は、都市問題の解決です。公害、環境保全の問題はほとんどが都市に集中しており、しかも全世界が都市化しつつある中で都市の環境を守り育てることができなければ、地球の未来にも光明はありません。
 この四つの原則をふまえて神戸の環境保全を考えた場合、人間中心の、どこよりも住みよい神戸の町にするのだという姿勢をまず行政がもつことはもちろんですが、市民の協力がなくては決して効果をあげることはできません。

  • 写真主催地のストックホルム市長を訪問し、都市問題などについて懇談した宮崎市長
  • 写真音楽を楽しみながらの市民集会
    (環境会議場周辺で)
  • 写真
  • 写真太陽を、"大事"にする という表現がぴったり。明るい日ざしが緑に映えると、ストックホルムの市民は公園に集まり、心ゆくまで日光浴をたのしむ

写真

神戸市の環境管理方式を説明する宮崎市長

写真

守るだけでなく造る環境

対談
リーフ・ブルノー氏(スウェーデン王立公害研究所長)
宮崎辰雄神戸市長

 国連の人間環境会議に出席した宮崎市長は、忙しいスケジュールをさいてスウェーデン王室公害研究所を訪問した。
 市長を迎えたブルノー所長は、応接室を使わず、スライドのある合同研究室に案内、あいさつもそこそこに本題にはいった。日本は、スウェーデンの十分の一の土地に十数倍の人間が住み、しかも国民総生産額は世界第三位、重化学工業比率は世界第一位。同じ環境問題を話し合ってもその土壌は全然違うわけだが、日本を二度訪れてかなり事情にくわしいブルノー所長だけに、一時間余にわたってなごやかに懇談した。

●一特定の対象を集中的に研究

 ブルノー所長 国際港都として有名な神戸市長のご訪問を心から歓迎し、かつ光栄に思います。一九六六年に当研究所および実験工場が建設され、当初は産業汚染、産業公害だけの問題を扱っていましたが、最近は地域社会に関連した、たとえば固型廃棄物の処理であるとかの問題も多くなっています。現在の職員は約二百人で、すべての問題に手をひろげるというのでなく、限られた持定の対象をえらぶようにしそれを集中的に研究するやり方をとっています。ご承知のとおり、スウェーデンはまだやや良好な環境状態が保全されていますし、いま努力をすれば将来にわたって良い環境が保全していけると思っています。

●神戸ボックス内で総量規制

 市長 神戸は日本の縮図のようなところだとよくいわれます。日本は、国土の約十五%のところに大部分の人々がはりついており、同じように神戸では、全面積の十%ほどの市街地に九十%の市民が住んでいるからです。残念ながら日本は"公害先進国"といわれていますが、しかし公害問題については神戸は決して日本の縮図ではありません(笑い)。日本の大都市の中では比較的良い環境を維持しています。いま所長がいわれたように、行政と企業と住民が一体になって努力をすればさらに良い環境が保全されると私も信じています。
 そこで、当地で開かれた国連人間環境会議に出席したのを機会に、神戸市がこれまで行なってきた"環境管理計画"を中心に世界の各都市にいくつかの提言をしたいと思い、これを小冊子にまとめて各国代表団の人たちに読んでもらったわけです。
 その骨子を申しますと、神戸の市街地は六甲山系を背に東西二十キロ。南北が四キロの帯状の街で、また冬の逆転層の高さが約五百メートルであることがわかったので、神戸の空は二十キロと四キロと、それに高さが五百メートルの長方形の部屋だと考えました。この「神戸ボックス」内の容量で自然の自浄能力がどれだけあるかを計算し、その能力の範囲内の汚染総量しか排出させないという規制をしたわけです。これを神戸独特の大気管理計画といっています。

 ブルノー所長 そういう"ボックス方式"をお考えになったのは非常に興味深いし、いいことだと思います。ただ規制の方法と、効果はいかがですか。また神戸だけのボックスで規制しても他のボックスから、たとえば大阪からの影響というのはありませんか。私はこれまでに二度日本を訪れましたが、大阪から神戸へ行った時にまったく切れ目なく市街地が続いている印象を受けました。

●効果あげた「公害防止協定」

 市長 おっしゃるとおりですが、大阪と神戸の問の市街地は日本有数の住宅街で、また西風が多いので大阪からの影響はあまりありません。またご質問の規制については、昨年に市内で年間七十二万トンの重油が燃焼されており、これによって出る亜硫酸ガスを二十%減にすれば自浄能力の範囲内ですむことがわかったので、それを基準に汚染源に対して排出規制をしたわけです。しかしこの規制も個々に対する法的な一律カットの方式でなく、市内にある数千の汚染源のうち汚染度の大きい五十数工場と地域住民の参加による「公害防止協定」を結んだ結果、カット率は大きいもので三十三%、その他は二十五%となり、翌年にはすでに大きな成果をあげました。

 ブルノー所長 二十%の削減計画というお話ですが、はじめは二十%の削減は容易かも知れませんが、年を追うにつれてパーセントを確保することがむずかしくなるのではないですか。またスウェーデンでは石油の中のイオウ分は二・五%以下という一般的な規制があり、持にストックホルムとか大都市周辺は一%というよりきびしい規制があります。

●よみがえった須磨海水浴場

 市長 イオウ分の含有量については日本では一%という法律になっています。しかし神戸市では国の法律ができる前に、企業との協定によって一%以下のものを使うという話し合いができていました。
 このように日本の場合は、その一つ一つの基準については恐らくスウェーデンよりシビアだと思うんです。ところが日本は工業生産額にしてもケタ違いに大きいですから、総量として、つまりトータルで公害を起こしている格好なんですね。私たちが独特の神戸方式を考えたのも。一本一本の煙突、一つ一つの工場廃水を規制するだけでは足りないので全体の総量規制をしたわけです。
 また、ご承知のように神戸は港で栄え、港とともに発展してきた町です。ですから港は神戸の"いのち"だという認識で大気と同じように水質管理計画を立て、神戸港の西部にある阪神間で唯一の須磨海水浴場を守るため沖にオイル・フェンスをつくったり、あらゆる対策を行なった結果、一昨年は三十二万人だった海水浴客が昨年は八十万人にのび、今夏はさらにふえると思います。私はこの二つの管理計画を実施した経験から、都市の環境は、守ろうと思えば必ず守ることができるという自信を得ました。

 ブルノー所長 大変貴重なご意見をうかがいましたが、いま一つお聞きしたいのは交通問題です。今回の国連人間環境会議でのアメリカ代表団などの発言をみても、自動車による大気汚染問題が非常に強調されていました。この問題についてある科学者たちは、それは克服できるものだというようなことをいってますが実際には、神戸では自動車による大気汚染はいかがですか。

●むずかしい自動車公害対策

 市長 たしかに工場などから出る大気汚染は克服できるでしょう。これは私の経験なり実績からもいえると思います。ご質問のとおりいま頭を痛めているのは、海洋汚染と自動車公害の問題です。

 ブルノー所長 日本でも自動車メーカーがいろいろ内部構造について研究を進めているようですが、結局はメーカーによる機器の改造に期待をかけざるを得ない現状ですね。それとスウェーデンでは、たとえばストックホルムから他の大都市へ自動車で行く場合には、ぐるっと市のまわりをまわらなければはいれない。もしはいっても、完全に迷ってしまうような道路計画をするなど、自家用車の通れるスペースをだんだん小さくしています。
 また海洋汚染についてはスウェーデンでも最近しばしば問題になっていますが、主としてその国の規制なり法律をよく知らない外国船が多いようで、モラルの問題であると同時に悪質な船舶に対する取り締まりをどうするかでしょうね。

●海洋汚染防止に国際Gメン

 市長 おっしゃるように、交通問題については結局は無公害車の開発に全力をそそぐ必要があると思います。既成市街地で自家用車を閉め出すというのも実際問題としてはむずかしいですが、できるだけ"遊戯道路"を多くしたり、レクリエーション地域ではノーカー・ゾーンをつくることなどを考えたいと思うんです。
 海洋汚染の防止もやはり国際協力が必要ですね。地球上の酸素の七割は海が供給源であることを考えると、世界の各港湾は船舶用の廃油処理施設を必ず設け、海洋での不法投棄を防ぐため国際Gメンの組織を国連で設けるよう私は提唱しているんです。不法投棄を重ねる悪質な船には入港時に必要なサービスを停止するなどの措置も考えるべきでしょう。

 ブルノー所長 それぞれの国なり都市の条件はいろいろ違うわけですから、画一的な考えにとらわれず国情や地域の特性に合った対策を考えるべきなのは当然です。しかし国際協力なしに真の環境改善はあり得ません。環境の技術開発もその一つではないでしょうか。
 市長 そのとおりですね。環境改善への技術開発は、まさに全人類のための科学です。国連の機構のなかに、環境問題に関する総合科学研究所の設置を私は提唱しましたが、と同時に、環境とは守るだけでなく造るものであることを強調したいと思います。

  • 写真緑化すすむ山手幹線のグリーンベルト(生田区)
  • 写真環境会議に出席した各国代表団を招き、スウェーデン国王主催の歓迎開会式が行なわれた王立オペラハウス
  • 写真公園での野外アトラクションをたのしむ市民

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潮風にもめげずすくすく育ったポートアイランドの樹木

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来年秋完成をめざし建築中の中央公会堂
(正面右は中央体育館)

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中央公会堂完成予想図

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"カラー・ロード"でのびのびと遊ぶ子ども
(兵庫区五宮町)

どこよりも住みよい神戸に
「神戸市民の環境を守る条例」

 港と六甲山の緑に包まれた神戸は、"公害先進国"といわれる日本の大都市の中ではまだ比較的良い環境を維持しています。しかしそれだけにまだまだ良くしていかなければなりませんし、また努力をすればそれだけ効果があげられる可能性があるということです。たとえば神戸で日照権、環境権の紛争が多いのは、市街地が傾斜していて見晴らしがよく、日あたりのよいのに市民がなれっこになって、他の大都市でいわば"ぜいたく"だとされているようなことでも、神戸の市民にとってはそれが当り前だというような感覚があるからでしょう。
 したがって、単に大気汚染や水質汚濁の問題だけでなく、グリーン作戦の推進、産業廃棄物の問題、自動車公害の問題から日照権の問題など、解決のむずかしい課題に勇断をもって取り組まなくてはなりません。

三つの柱

生活環境を守り育てる
自然環境を守る
文化環境を育てる

 人間環境は@生活環境A自然環境B文化環境−の三本の柱に分けられますが、この三つを総合的に実施するための基準をつくり、これを市と市民の共通の"憲法"にしようというねらいでいま考えられているのが「神戸市民の環境を守る条例」です。この条例と同時に「人間環境都市宣言」も具体的に検討されていますが、これらは公害防止関連の法律や兵庫県の条例だけでは規制、処理できない複雑な環境破壊から市民生活を守り、きめこまかい公害防止をはかるのが目的で、このような広範囲にわたる"環境条例"は全国でもはじめてです。

人間尊重の都市計画

 そこで生活と自然と文化、この三つの環境を守り育てる具体的な対策として検討している主なものをあげてみますと―。
 まず、生活環境を守る対策の一つとして、環境改善のための都市計画を進めます。ともすれば、これまでの都市計画は、道路や公園をつくったり、あるいは鉄軌道をつくるために行なっていましたが、これを、たとえば住宅と工場が混在している地域では、住宅と工場を分離し、グリーンベルトでしや断するなど地域純化に努めます。そして、そこに住む人たちが工場の騒音や大気汚染などに悩まされずに安心して暮らせる生活環境をつくり出そうというものです。現在、長田区の苅藻地区の人たちと一緒になってこの都市計画を考えています。
 またこれからつくる道路は、車の通る道路と人の通る道を別々にするようにします。それにはかなりの経費がかかりますが、ポートアイランドやニュータウンでは、ぜひこれを実現したい考えです。緑を守りふやしていくグリーン作戦、ゴミ戦争に挑戦するクリーン作戦はもちろん生活環境を守る重点施策で、今後とも積極的に進めます。

六甲にノーカーゾーン

 自然環境を守る手近な対策としては、市民のオアシスであり貴重な宝でもある六甲山の自然を保全し、山の川を美しくしなければなりません。また山上にノーカー・ゾーンをつくることは、道路交通法などの関連でむずかしい問題ですが、なんとかつくりたい方針で検討をいそいでいます。昨年以上の海水浴客でにぎわっている須磨の海水浴場も、さらに努力を続けることによってより美しくしたい考えです。

建設進む中央公会堂

 文化環境を育てる対策については、従来から、花と噴水と彫刻のある豊かな文化環境のまちづくりをめざしてきましたが、新しい市民文化の開花を願って先にオープンした市民小ホール(海員会館)に続き、大・中ホールを持つ中央公会堂の建設も進んでいます。人間が生きていくためには、うるおいと情緒豊かな環境がどうしても必要で、生活と自然と文化の、どれ一つが欠けても良い環境とは決していえませんし、そして、環境とは守るだけでなく造るものであることを、改めて認識したいものです。

環境改善に特効薬なし

 しかし、環境を守り育てるための特効薬はありません。国連が開いた人間環境会議は世界の中の日本、さらに日本の中の神戸のあり方を考える絶好の機会でした。環境改善は広域的、全地球的な見方で考える必要があるわけですが、その土台になるのは、やはりそれぞれの地域がその特殊性に応じ、行政と市民が一体になって精いっぱいの努力をすることです。それが次第に広がって日本全体が良くなり、ひいては全地球的なものにつながるのではないでしょうか。
 「われわれは、きょう、新しい希望の旅路に出発する」―。ストロング事務局長のこのことばを、いま一度、思い返してみたいものです。

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この子らに、この自然を…(正面は垂水区伊川谷町、大山寺の朱塗りの三重塔と原生林)
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